第四章:仮面魔闘会
仮面魔闘会―予選―
大会に向けて精神を研ぎ澄ませる時間を取るためか、参加者は指定時間になると個別の控え室に案内されます。
わたしは口元を隠すマフラー、目を覆うゴーグル、髪色を誤魔化す赤毛のカツラに、学園指定の制服を身に付けたとても変な格好で一人静かに控え室で出番を待ちます。
誰にもわたしだとバレない反面、距離を取られること間違いなしな地味に悲しい現実を、鏡で確認することにもなりました。
これだけの代償を払ったのですから、何か持ち帰らなくては……もともと高かった士気は増す一方です。
この
予選を含むこの大会自体が実技演習も兼ねていて成績にも反映されるので、こんな風に集中できるスペースを用意してくれたりもしています。
本当は
それでも毎年何人も
うん、こんな格好のわたしでも目立たずにすむかもしれませんね。
「それにしても……本当に参加することになるとは思っていませんでしたね」
そんなことを無意識に呟いてしまいました。
口元が隠れるマフラーを巻いているので外からはモゴモゴ動くくらいで分からなくて良かった。
こんなことをヴェルターにバレたら「嘘だと思っていたのかい?」なんてすぐ傍に現れそうですからね。
……近くに居ないから気付くはずがありませ……ありませんよね?
思わずきょろきょろ周囲を見渡してしまいました。
――青ゲート、アイルゥ=ヤト!
対戦者の名前が呼ばれています。
では遂に始まってしまうのですか……。
気後れする心を奮起させて控え室を出て、たった数十秒しか立てないリングに向かいます。
光が差し込む四角い通路を抜けると、既に舞台に上がった相手もわたしと似たような格好……であるはずもなく、普通に素顔と動きやすい私服での参加でした。
むぅ……元々わたしに不利なのに、ヴェルターは厳しすぎませんか?
チラリと視線を向ければ手を振ってくれました。
わたしの気も知らないで……。
ですが見守られることなんて無かったので、心がゆっくり温かくなるのを感じます。
ただ、同じように「ダメージを受ければ一発で負けるので気をつけてください」とも言われています。
準備や秘策もありますが『これで勝てるのか?』とやはり不安になってしまいます。
これまで運動はしても、わたしは一度も『魔法士戦闘』なんてしたことが無いんですけど……。
――赤ゲート、
……え、もしかしてわたしです?
金は髪の色だとしても、わたしが
あの賢者は何て名前で登録しているんですか!
昨日、気楽に「手続きは私がやりますから、ティアナは休養していてくださいね」なんて言っていたのを鵜呑みにしたのが間違いでした!
しょぼんと頭を俯かせ、ヤトと呼ばれた対戦相手と
「すごい格好だね」
対戦相手が声を掛けてきましたが、まだ術式が降りていない舞台に立つわたしにはそんなに余裕はありません。
開始の合図と共に
時間制限ありで衆人環視の中、負けられない戦いを
舞台に上がるだけで息を切らすわたしの……ま、分かりませんよね。
だってこの学園に在籍する先生や生徒は、魔法という特別な技術を扱える人たちばかりですからね。
「無視、か」
本性を隠している状態では声を出すわけにもいかず無言になるのは許してください。
視界を閉じ、耳を研ぎ澄ませ、肌で感じ、俯いたまま開始の合図を待ちます。
そう、わたしはこれから勝てないはずの相手に勝たないといけないんですよ。
けれどヴェルターが『
そしてわたしは
彼ができると言うのなら、できるはずなのです。
「二人とも、準備は良いかな?」
「相手は知らないけどこっちは構いません」
わたしは静かに息を吸い、しっかりと頷きました。
余裕なのか、対戦相手のヤトから「やっぱりダンマリか……つれないね」なんて聞こえてきます。
視線をついっとヤトに向けると、その奥の観客席にいつの間にかヴェルターが移動していました。
え……特等席?
――はじめっ!!
ぽかんとするわたしを置き去りに、ヴェルターが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます