賞味期限は誰が決めた
Maddam
第1話 賞味期限と対峙
“賞味期限 2018.6.28”
冷蔵庫の中にあるコンビニで買ったプリンの蓋の印字が、目にとまった。
『あ…今日か。しかも、私の誕生日…。』
35歳になった私。
なぜだろう、プリンの“賞味期限”なのに、1歳年を取った私は、その単語が引っ掛かる。
賞味期限という印字から目が離せない。
“消費期限”よりはましか…?
彼氏はいるが、その彼氏は私の誕生日を忘れたのか、お祝いディナーの予定はない。
しかも、最悪な気分にさせるのは、午後8時にもなってお祝いのメッセージすらないことだ。
誕生日のお祝いがないだけで、わざわざ彼にそれを指摘する気にもなれない。
むしろ、彼の無神経さに呆れてている。
…違う…
もし、誕生日であることを彼に伝えて、その時の彼の反応を見るのが怖いのかもしれない。
忘れているだけならましなのだが、
「いい年して誕生日のお祝いとか大人げない」とか、
「仕事で忙しいのに、お祝いを強要するな」とか、
さらに傷つく反応が返ってきたら最悪だ。
誕生日に好きな人と過ごしたいと思う私の気持ちは、私の価値観であって、
彼の価値観とは違うかもしれない。
去年までの4回は、ディナーとプレゼントでお祝いしてくれたのに。
お祝いをしたいなら、自ら彼に予定やプランを事前に確認しておくべきだったか?
もし、私が5歳若い30歳だったら…10歳若い25歳だったら…
どうしていただろう。
今回は、単に忘れているだけなのか、35歳という年齢でお祝いをしてくれないのか、年に1度の私の誕生日は彼にとっては普段の日々と変わらない価値でしかないのか確認する術がない。
昨日まで気にもしていなかったのに、なぜか“35”という年齢が思考と行動の邪魔をする。
…プリン、食べるようかな。
ブブッブブッ。
彼からのメッセージだ。
『お疲れ様。今から帰るよ。優香は夕食済ませた?』
やっぱり、私の誕生日を完全に忘れている。
『夕食済んで、期限が今日までのプリンを食べてる。』
あぁ…
さりげなく、日にちに意識を向けてほしくて、期限が今日と入れてしまった。
『そっか。期限前に気づいてよかったね。おいしい?』
ふざけんな。おいしい?じゃない。
私の誕生日だ。
彼氏がいない誕生日はきっと寂しく感じるが、誕生日を忘れているまたは祝ってくれない彼氏がいると虚しい。
再び思考と行動の邪魔をされ35歳がとるべき行動の正解がわからなくなる。
若い女性のように彼に詰め寄ることもできず、成熟した女性のように彼を受け入れて心穏やかに過ごすこともできない。
彼に対しても、何もせず何も出来ずただネガティブな自分に対してもモヤモヤ・ムカムカしている。
こういう心情の時は寝るのが一番だ。
明日も仕事だし、彼とのメールは適当に終わらせて、シャワーして寝よう。
今まで気にも留めず、誕生日とリンクさせたことのない賞味期限の日にち。
日にちであって、それ以外の意味を持たないはずの“賞味期限”と対峙し、“35歳”という目には見えない、何かが心のどこかに生まれた気がした。
それは、物質がないのに重みと苦みの味を秘めたものであるかのような存在だ。彼と祝えなかった今日という日に対しての感情か、35歳という年齢に対しての感情か実際にはよくわからないけど...。
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