第8話
あの肉まんに手足が生えたような女であっても、夫にとっては妻であり、息子や娘にとっては母であるのですから。
警察に通報するのは当然として、自分たちでも思いつく限りありとあらゆるところに連絡、または聞き込みに回りました。
傍目にはものの哀れを誘うほどに妻を、母を捜したのです。
そういった事情ですから、当たり前のように私のところにも訪ねて来ました。
「なにか知りませんか?」と。
私は答えました。「なにも知りません」と。
そのうちおさまるだろうと思っていたこの騒動も、私が考えていたよりは長引きましたが、ようやく終息を迎えつつあります。
どこにでも転がっているような女が一人消えたからと言って、それにずっとかまかけていられるほどみんな暇ではありません。
たとえ近所の人でもそうです。
家族にしても内心はよくはわかりませんが、少なくとも表面上はおとなしくなりました。
その後も毎日のようにテレビを見て、ついでに公園のトイレも気にはかけていたのですが、しばらくの間は何事もなく過ぎてゆきました。
誰も公園のトイレに入らなかったからです。
公園の前の道を誰かが通る言うこと自体、まれなことではありますが。
ところが何々は忘れた頃にやって来るという言葉がありますが、まさにその通りのことが起こったのです。
ある日、仁科のじいさんが歩いているのが見えました。
わりと近くに住んでいる人なのですが、じいさんがこの道を通っているのを、私は初めて見ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます