揺らめく陽炎と百合双華

楠富 つかさ

Episode0-0 宵闇に光る銀の刃

 空は群青。星すら見えずただ深い闇が広がっている。美しさはそこにはなく、立ちこめる黒煙が闇をより一層重苦しいものへと変えてゆく。ただただ大地は赤い炎に包まれ、煌々と廃墟と瓦礫を照らし続ける。


「どうしてここまで来ちゃうかなぁ」

「貴女をこのようにしてしまった責任を、私は取らなければならない」


 対峙するのは二人の少女。一方は純黒の髪を高く結い、髪と同色の外套を纏っている。また、その手には一振りの日本刀。切っ先はもう一人の少女に向かう。対峙する少女は、赤銅色の髪をまっすぐに伸ばし、向けられた刀に怯むことなく虚空より大鎌を出現させる。


「君にわたしを殺せるかい? 死に損ないの死神さん」

「貴女を殺すつもりはない。ただ、その冥王の魂さえ消せれば、私の命すら惜しくない」


 死神と呼ばれた少女が振るった大鎌の刃先が、自身に向けられていた刀の切っ先を跳ね上げる。裂帛の気合いと共に振り下ろされる刃を、黒髪の少女は表情一つ変えることなく躱す。


「焼き払え」


 黒髪の少女が振るう日本刀は紅蓮の炎を纏い、辺りをより一層熱する。燃えさかる炎を避けて肉薄する死神と呼ばれた少女は、石突で一撃を加えた後にその凶刃を振るう。湾曲した刃が胴体を横薙ぎにする直前に、その刃を日本刀が押し止める。お互い、細い体躯からは想像だにしえない膂力のせめぎ合いである。黒髪黒衣の少女は日本刀を支点に軽々とした挙動で大鎌の刃上に立つ。赤銅色の髪を振り乱し、舞うように大鎌を取り回す少女を、黒髪黒衣の彼女は涼しい顔で避け続ける。しかし周囲は灼熱、死神の少女は必死の表情で攻め立てる。大上段からの一振りが、日本刀に弾かれ大鎌は宙を舞った。その軌跡を黒髪黒衣の少女は無意識のうちに眺めていた。相手が丸腰になった故のかすかな余裕……否、慢心によるものだった。


「届け……届けぇえ!!」


 それでも死神の少女は闘志を瞳から消さなかった。懐から取り出した“それ”を相手の胸に突き立てる。突き立てられた、刃と呼ぶにはあまりに儚いそれは――――一輪の百合を模した美しい簪であった。

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