きつねとお月さま
田島絵里子
第1話 お月さまときつね
森の中にきつねがいました。夜になるときつねは、森のちいさな池に行って、お月さまをながめるのでした。この日も金色のまんまるお月さまが、きらきらと森を照らしていました。「こんばんは、お月さま」
きつねは、池のお月さまに話しかけました。
「きつねさん、いつも見守ってくれて、ありがとう」
お月さまも、ごあいさつしました。きつねはお月さまの元気そうな顔を見て、
「ぼくもそっちに行きたいな」
と言いました。
「ちゃんと来れるよ。簡単だよ」
お月さまは、ニコニコわらっています。
「ええっ。どうするの?」
きつねが言うと、お月さまは、
「空へのきっぷを頭にのせて、池にとびこめばいいんだよ」
「空へのきっぷ?」
きつねは、ふしぎそうに聞き返します。お月さまは、
「木の葉だよ。おじいさんからもらったでしょう?」
そうです。人間に変身できる木の葉を、きつねは持っていたのでした。どうやらその木の葉は、変身できるだけではないようです。
きつねは家にもどって木の葉をとりだし、頭につけました。そして池のほとりへと歩みよりました。すると月の光が射し込んできて、木の葉が青く光りました。
「えいやっ!」
きつねは、思い切って池の中に飛び込みました。とたん、池が波打ち、大きな穴が開いて、そのままきつねを飲み込んだかと思うと、きつねは月の世界にたどりついていました。
月の世界はしずかで、ひらひらと美しい蝶や、見たこともない花が咲いていました。かぐわしい匂いがあたりいちめんただよっています。
ところがそこへ、いじわるな黒い雲が、月をいじめにやってきたのです。びゅうびゅう冷たい風が吹き、月の花びらは舞い散って、蝶はどこかへ消えてしまいました。きつねは雲にむかって、
「けーん!」
ととびかかっていきました。
「お月さまをいじめるな!」
とドロドロした雲に爪を立てると、雲はぎゃあと言ってたいさんしてしまいました。
その拍子にきつねは、どっぼーん!
はるか下にある森の池へと、まっすぐ落ちていきました。
「きつねさん、だいじょうぶ?」
お月さまは、心配そうです。きつねは池からあがりました。からだはふしぎと濡れていませんでした。ふと、頭をなでてみました。
「あれっ。ない。空へのきっぷになる、あの木の葉がない」
「たいへん! どうしましょう!」
お月さまは、しばらくしてから決意しました。
「わかったわ、わたしのたったひとつの金メダルをプレゼントしましょう。これを使って、わたしの国にいらっしゃい」
お月さまは、そう言って高い空からメダルを池に落としました。
きつねは、胸を張ってそれを頭からさげ、
「どうもありがとう、お月さま」
と言いました。
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