第37話 対決、光のエレメンタル!
「まさか、二人と二匹でフレイムゴーレムを倒してしまうとはね」
俺たちの説明を聞いて、呆れたように言うイリス。
「経験値もあなたたちだけで山分けではありませんの! 狡いですわ!!」
プリプリと怒るキャシー。まあ、確かに俺たちだけ美味しい思いをしたからなあ。
「それでも、二人が無事で良かったですぅ」
「左様でござる。まずは再会できたことを喜ぼうではござらんか」
「それに、今は過ぎたことで喧嘩している場合ではないぞ。競争なのだから、早く次のフロアに進むべきではないか?」
「同意」
「まあ、それはそうですけど……」
ウェルチたちもとりなしてくれたので、少しむっつりしながらもキャシーも矛を収める。
「悪い悪い、帝都に帰ったらみんなに何かおごるよ」
「ごめんね、みんなでスイーツでも食べようよ。お金はあたしたちが出すから」
「約束ですわよ」
俺とアイナも謝って埋め合わせを約束したら、コロッと機嫌を直すキャシー。チョロい……んじゃなくて、最初からそのあたりを落とし所だと考えてたんだろうな。
キャシーって一見ワガママなように見えるんだけど、実は自分がワガママを言ったり怒ったりして場を乱したのを治めさせることでパーティー全体の雰囲気を変えてるんじゃないかなと思えるんだよね。彼女が前に所属していたパーティーのリーダーはそれに気付いて無かったっぽいけど、今頃は彼女のありがたさに気付いてるんじゃないかな。
「さて、それじゃあ次のフロアに下りよう。いよいよ最下層だぞ」
みんなに声をかけて、ボス部屋中央に出現した階段を下りる。
「今までのゴーレムとは違って、この層のボスはエレメンタルになるわ。今まで倒してない属性は光だけだから、光のエレメンタルが相手よ」
第七層に下りるとアイナがフロアボスの説明をする。
「強そうだな」
「ええ、強いわよ。一番の特徴は『光属性攻撃無効』じゃなくて『光属性攻撃吸収』になってることね」
「『吸収』!? つまり光属性の攻撃をすると逆にHPが回復するってことか?」
俺が思わず目をむいて尋ね返すと、アイナはきっぱりとうなずいて答える。
「そうよ。だから光属性の入った攻撃魔法とか、光系の魔法剣は一切使えないと思って」
それに対して、今度はクミコが尋ねる。
「対抗属性である闇属性の攻撃はどうなのだ? 我は闇属性の攻撃魔法も得意だぞ」
「理論上は一番効くはずなんだけど、相手は光属性の塊みたいなモンなのよね。生半可な攻撃だと相殺されるだけかも」
「ううむ、そうか……」
アイナの返事を聞いて考え込むクミコ。こいつも頭は良いので、何か策を練ろうとしてるんだろう。
「まずは、この階のボス部屋まで行かないとな。オリエとアイナが先行して罠を探りながら進もう。ほかはいつも通りのフォーメーションだ」
普段のフォーメーションだと、オリエのみが先行して罠を探るのだが、先の罠が精霊系だったのでアイナにも先行してもらう。その後ろを前衛のカチュアとイリスが進み、回復役のウェルチと攻撃支援のキャシー、クミコが続いて、最後尾は背後からの奇襲にも対応できるように前衛も後衛もこなせる俺が後ろを警戒しながら進む。ちなみに、普段のフォーメーションだとアイナがキャシーとクミコの位置に一緒に入っている。
さすがに最下層だけあって道は多少複雑になっていたほか、今まで上の階に出てきたような炎の壁みたいな障害が再登場したが、前と同じように全部アイナが精霊にお願いして突破できた。出てくるモンスターは相変わらず雑魚だったので、ほとんどノーダメージで進めている。
「ちょっと待つでござる。この地図から考えると、このあたりがボス部屋になるはずでござるよ」
オリエがマッピングしていた手を止めて、描き上げたばかりの地図を俺たちに示しながら言った。
地図をのぞきこんで見ると、確かにボス部屋っぽい空間がこの先にありそうな形になっている。
「ちょっと待ってね……うん、この壁に精霊が隠してる扉があったわ! これ、地属性の精霊がかなり本気で隠れてたから、結構腕利きの
壁を探っていたアイナが、やはり隠れていた隠し扉を見つけた。
「それを見つけられるんだから、さすがだなアイナ」
「まあね。でも、これくらいできなきゃエレメンタラーにはなれないってことだと思うわ」
「なるほどな。それで、開けられそうか?」
「それは大丈夫。見つけた時点で、この子『ちぇっ、見つかっちゃったか』みたいな感じで開けてくれるって言ってるから」
アイナが保証したので、みんなを振り返って指示を出す。
「よし、このダンジョンのラスボスが相手だ。気合いを入れていくぞ! HPは万全だな。MPが減ってたらポーション飲んでおけよ」
そう言いながら、俺もインベントリからMP回復ポーションを取り出して一気飲みする。一応シロップとか入ってて甘い味付けにはなってるんだけど、何か味にえぐみが残っててマズいんだよな、コレ。
アイナとクミコがMP回復ポーションを飲む。ウェルチは今回は回復魔法を使ってないので飲んでいない。ほかは大丈夫かな。
「ああ、ウインドがブレスを使ってたね」
そう言いながらイリスがウインドにMPポーションをかける。そうか、スライムたちのMPも回復させておかないとな。合体はMPを消費しないけど、MPを消費するブレスを使ってるスライムは回復の必要がありそうだ。いや、合体したレインボゥの状態でブレスを使った場合は全スライムで均等にMPが減るからスーラも減ってはいるんだよな。
スーラや、ほかのみんなのスライムもMPを回復して、万全の状態になった。
「それじゃあ、開けてくれ」
「了解。精霊よ、隠された扉を開いてちょうだい」
アイナが壁に手をついて精霊にお願いすると、すぐに壁に亀裂が走って壁面の一部が割れ、入口になった。
「さあ、行くぞ!」
「「「「「「「「オーッ!」」」」」」」」
全員で気合いを入れて、ボス部屋に突入する。すると、部屋の中央に光が集まって、巨大な光の玉になった。あれが「光のエレメンタル」か。
「スーラ、合体だ!」
俺の命令で、スーラたちは合体を始める。
カチュアがその前に立って攻撃を防ぐ姿勢をとり、いつでもカバーができる状態になる。俺とイリス、オリエは範囲攻撃の対象にならないようにバラバラに前進して光のエレメンタルを包囲する位置に移動する。アイナとキャシーとクミコもエレメンタルからは離れる方向に分散する。ウェルチのみはスーラたちの背後で、カチュアが守りやすい位置を取る。これが俺たちのボス戦のときの通常のフォーメーションだ。
合体が終わったレインボゥは、合体後の硬直がとけると、すぐにふにょんふにょんと光のエレメンタルに向けて動き出す。
それに対して、光のエレメンタルから一条の太い光が走った!
ピロッ。
よし、ダメージは無い。光のエレメンタルの攻撃であっても、レインボゥには効かない。
光のエレメンタルの前まで到達したレインボゥだが、相手も物理打撃は無効。そこでレインボウは闇のブレスを放つ。
バシィ!
……余り効いてないな。ダメージは光のエレメンタルのHPの五パーセントといったところだ。これで倒すには二十回くらいの攻撃が必要になる。
「倒せはすると思うが……」
「でも、レインボゥには、これ以上の威力がある闇属性攻撃のスキルは無いよ」
思わず漏らした俺に、イリスが問題点を指摘する。
「我が闇魔法を喰らうがよい! 『ダークストリーム』!!」
クミコが右手の杖を光のエレメンタルに向けて差し出すと、その先端から闇の奔流が吹き出して光のエレメンタルに殺到する。
バシィ!
「同じか……」
クミコの最大の闇属性攻撃黒魔法でも、削れたのは五パーセント程度。レインボゥとクミコが合わせて攻撃をしても、倒すまでには結構な時間がかかりそうだ。
俺やイリスの武器に闇属性を付与する「ダークウェポン」みたいな魔法をかけてもらって近接戦闘に持ち込んでも、大したダメージにはなりそうもない。
そんなことを考えていると、光のエレメンタルがカッとひときわ強く輝くと、その直後に四方八方に光線を乱射しだした。
「カバー」
最初に輝いた時点でカチュアが攻撃を予測してカバーを発動していて、そのままウェルチをかばうが、それ以外のメンバーは俺も含めて何発か直撃を受けてしまう。乱射モードだからか、一発あたりのダメージは低いが、それでも俺はガードしていたにもかかわらずHPの四分の一を削られてしまった。
「『オールヒール』ですぅ!」
待機していたウェルチがパーティー全員を回復する魔法をかける。完全回復とはいかないが、かなり持ち直すことはできた。
しかし、オールヒールは消費MPが高い。まあ、今回はMP回復ポーションを大量に準備しているので、持久戦だったら倒せるとは思うが……
「このまま持久戦をすると、時間の方がマズくないかな?」
俺が懸念していたことをイリスも指摘してきた。そう、今回は先着七組だけがエレメンタラーになれるという試練だ。俺たちは最後発組。途中のモンスターや罠がもっと高度なものだったら、ほかのパーティーも時間がかかってるかもしれないが、今までのダンジョンの様子だとAランクパーティーが苦戦する可能性は低いだろう。Bランクパーティーでも「
「マズいな。だからといって、何か方法があるか?」
問い返した俺に、イリスも渋い顔で黙り込む。
「あ、そういえば『コンプリートビッグキャノン』はどうですの!? あれなら光のエレメンタルであっても一撃で吹き飛ばせるのではなくて?」
俺たちの話を聞いていたキャシーが割り込んで来た。それは俺も一瞬考えたんだが、ある点で駄目なんだ。
「あれ、全属性攻撃だから光属性も入っちゃってるのよ。そのせいでアレで攻撃すると光のエレメンタルが回復しちゃうの」
「クッ、そうでしたわね……忌々しい光玉ですこと!」
俺の代わりにアイナが答えてくれた。それを聞いたキャシーが光のエレメンタルに毒づく。
と、そこに少し離れた位置にいるクミコが声をかけてきた。
「我に良い考えがある」
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