第36話 「熱い」戦い(色々な意味で)

「『カバー』っ!」


 その直後に、俺はスキルを発動していた。俺の体が全力疾走のスピードより更に高速で移動するとアイナと火炎弾の間に割り込む。


 ズガッ!


「ぐぉっ! 熱っ!!」


 ま、間に合った。何とかアイナをカバーのスキル効果範囲に入れることができたぜ。ウチのパーティーだとカチュアが主に使ってるけど、俺だって器用貧乏の代名詞である魔法戦士マジファイター上がりなんだ。カチュアほどスキルレベルは高くなくてもカバーぐらいは使えるさ。まあ、スキルレベルが低い分、射程も短いんで、かなり対象と接近しないと守れないんだが。


 にしても痛えな。一応盾でガードはしたものの、それでもHPの三分の一以上を持ってかれたぜ。


「りょ、リョウ、顔が……」


 アイナが心配そうに声をかけてくる。チッ、この感じだとガードしきれなかった火で顔が結構焼けただれてそうだな。左目は密偵の片眼鏡スカウトモノクルで守られてるから大丈夫だけど、右目が開けない。右半分やられてるな。左目が見えるから盲目ブラインド状態にはなっていないが。


「気にするな、次に自分で回復魔法をかける。HPだって、あの攻撃をあと一撃は耐えられるだけ残ってるんだから心配するな。お前は扉を開けることに専念しろ」


「りょ、了解!」


 アイナは凄く心配そうな顔をしてたが、それを振り切って隠し扉の方に向けて再び走り出す。俺はカバーの硬直時間で動けないが、今度は合体後の硬直がとけたミドルルージュが猛然とフレイムゴーレム目がけて突進していった。


 まあ、お互いに火属性で、火属性攻撃無効のパッシブスキルを持ってる。おまけにフレイムゴーレムは実体が無いから物理打撃も無効。つまりミドルルージュと条件がまったく一緒なんで、お互いに攻撃が効かないんだ。それでも攻撃すれば挑発になるから、これからはミドルルージュがフレイムゴーレムの攻撃を引き受けてくれるだろう。フレイムゴーレムはレッサードラゴンほど賢くないから、攻撃が効かない相手にも延々と攻撃するはずだし。


 そう思って見ていた俺の左目が、信じられない光景を写し出していた。


 バシィ!


 ダメージエフェクトが表示されると同時に、フレイムゴーレムのHPがガクンと削れる。同時に、ミドルルージュの方に回復エフェクトが表示される。ただ、ミドルルージュのHPは元々から満タンなので、別に増えたりはしていないが。


 ルージュにはフレイムゴーレムに攻撃が通るスキルなんて無いはずだぞ!? それに、あの回復エフェクトは何なんだ?


 疑問に思った俺は密偵の片眼鏡スカウトモノクルの設定を詳細モードに切り替えてミドルルージュを見てみた。すると、スーラやルージュのときには無かったスキルが増えている。そうか、レインボゥもそうだけど、合体することでパワーアップして使用できるスキルが増えるんだ。単にHPや攻撃力が上がるだけじゃないんだった。


 そして、俺はミドルルージュに増えたスキルを見て戦慄していた。


 そのスキルの名は「ドレイン」。相手のHPを吸収して自分のHPに変換してしまうスキルだ。


 どちらかというと上位の不死怪物アンデッドが持っていることが多いスキルだが、レベルが上がったスライムもおぼえることがある。


 例のレベル99まで育て上げられた伝説の召喚スライムがドレインをおぼえいていたって話を聞いたことがあるからな。


 これ、レインボゥも身に付けたら今より更に無敵になるぞ……いや、逆も言えるな。ドレイン系だとレインボゥにもダメージが通りそうだから、アンデッド相手にするときは気を付けないと。


 と、そんな風に思っていると、俺の体の硬直が解けて動けるようになった。


「『ヒール』!」


 回復魔法で、とりあえず自分に応急処置をする。HPは受けたダメージの四分の一くらいしか回復していないが、とりあえず右目は開いた。こういうときはウェルチの「ハイヒール」が欲しいぜ。


「リョウ、ここに扉があったわよ。だけど、開ける? 何かルージュたちがフレイムゴーレム倒せそうな感じなんだけど」


 南側の壁の隠し扉のところに到達したアイナが声をかけてくる。確かにな。相手の攻撃は通じず、こっちの攻撃は通る。ドレインはそんなに大きくHPを削れるスキルじゃないが、それでも相手のHPの六分の一くらいは削ってるんだ。あと五回攻撃すれば倒せるな。


「そうだな。もう少し様子を見よう。俺に回復魔法をかけてくれるか?」


「わかったわ。命の精霊よ、リョウの傷を癒やして……『トリート・ウーンズ』」


 アイナの回復魔法で、俺のHPはだいぶ回復した。アイナの方に移動してから自分でもヒールを再度かけると、ほぼ全快する。


「助かったぜ。アイナのトリート・ウーンズは俺のヒールより効くな」


 アイナをフレイムゴーレムから守れる位置取りをしながら、とりあえず礼を言う。


「あたしの守って負った傷なんだから癒やすのは当然でしょ。だけど、どうしてカバーしたりしたのよ? あたしだってフレイムゴーレムの一撃に耐えられるだけのHPはあるんだから、あたしに回復魔法かける方が効率的でしょ」


 アイナが聞いてきたので、俺はアイナの方に振り返って、真面目な顔をして答えた。


「いくら癒やせるにしても、お前が傷つくところなんて見たくなかったからだよ。特にアイツの攻撃は火炎系だからな。お前の綺麗な顔や肌が焼けただれるところなんて、俺は見たくないんだ」


 アイナの顔が真っ赤に染まる。おっし、今度は見れたぞ!


「ば、バカ……あたしの顔なんて大したことないのに……」


 うん、フロアボスとの戦闘中なのに暢気だとは自分でも思うが、アイナが恥ずかしがる顔とか意外にレアなんで振り返っておいてよかったと思う。フレイムゴーレムから視線を切っちゃったけど、もうアイツはミドルルージュを狙っては攻撃が効かないって行動を繰り返してるだけだから心配はいらない。逆にミドルルージュは着実にフレイムゴーレムのHPを削ってる。ここからは観戦モードで大丈夫だ。


 だから、俺は前から気になってたことをちょっと尋ねてみた。


「何でアイナは自分の顔に自信が無さげなんだ? 俺の主観だけじゃなくて、客観的に見てもお前は結構な美人だと思うんだが」


 それを聞いたアイナは、ちょっと自嘲気味に口の端をゆがめて答えた。


「比較対象の問題……かな? ウチの村って基本的にエルフの村じゃない。で、エルフって種族的に細面の美形が多いわけよ。女の子は特にそう。うちの村でも今の小さい子にはクォーターも多いけど、あたしが小さかった頃はクォーターってまだ少なくて、同世代だとあたしぐらいなのよね。それで、純血のエルフって、ホリー姐さんとか、ミーネとか、同性のあたしから見ても綺麗だなって子が多いわけ。ハーフの子も美形が多いし。それに比べると、どうしても劣ってるって自覚があるのよ」


 ああ、なるほどな。だけど、それは勘違いだ。


「そうかぁ? エルフの目って細くて切れ長のことが多いけど、俺はアイナみたいな大きい目の方が可愛くて好きだけどなあ」


「え? そ、そうなんだ……」


 おお、照れてる照れてる。追撃のチャンスではあるが、押しすぎるのも何だから、ここは少しツッコみ返せるネタで褒めるか。


「あと、エルフはスレンダー体型が多いしな」


 わざとアイナの顔を見ていた目線を胸のあたりに移しながら、そう言ってみる。


「ば、バカ、何見てるのよ! ……でもまあ、確かにそっちには自信が無くもないけど」


 腕組みをして胸元を隠しながらアイナが答える。よし、言葉に出してるほど嫌がってないよな。ここ、加減間違えるとセクハラだし、相手の気持ち読み間違えたら、ただの痛い勘違い野郎に堕ちるからなあ。


「悪ぃ悪ぃ。だけど、アイナが女性として魅力的だってのは絶対に本当のことだぞ」


「う……そ、そう?」


「そうさ、自信を持てよ」


 おっと、いい所ではあるが、そろそろ戦闘の方に注意を向けないとな。俺の魔法でもトドメが刺せるくらいにフレイムゴーレムのHPが削れてきてる。


「さあ、スーラとルージュにばかり戦わせるわけにもいかないだろう。俺も水属性系の魔法で攻撃する。アイナは撃てるか?」


「え? あ、ああ、大した威力にはならないけど、一応水筒はあるから撃てることは撃てるわよ」


「よし、それじゃあ攻撃だ。『アイスニードル』!」


「水の精霊よ、氷の矢であいつを狙って! 『アイスアロー』!!」


 俺が使える水属性系の黒魔法で一番威力が高いヤツをフレイムゴーレムに向けて放つと、アイナも精霊魔法で攻撃する。


 バシ、バシィ!


 俺たちが放った魔法が連続でヒットして、フレイムゴーレムのHPを削りきった。炎の巨人の姿が崩れ、空中に拡散して消えていく。よし、勝ったぞ!


 それと同時にフロアの中央に下層につながる階段が出現した。


 そして、ミドルルージュがスーラとルージュに分裂して、俺たちの方にふにょんふにょんと駆け戻ってくる。


「よしよし、お疲れ様。お前たちのお陰で助かったよ」


「本当よね。ドレインが使えるなんて、凄かったわよ」


 近くまで戻ってくると、ぴょこんと俺目がけて飛び上がってきたスーラを抱っこし、優しく撫でながらねぎらう。アイナも同じようにルージュを撫でながら褒めてやっている。


「さて、それじゃあ、みんなと合流しよう。こっちの扉を開けて探しに行かないとな」


 俺がそう言うと、アイナも頷いて南側の壁に向けて声をかける。


「そうね。精霊よ、この隠された扉を開いてちょうだい」


 アイナの声に応えるように、壁面に亀裂が入ると、そこから左右に開かれていく。


「あ、勝手に開いた!?」


 隠し扉の先には、驚いているイリスたちの顔があった。

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