第9話 スライムの女神
あれ?
ひとりを除いて喜びにひたっていた俺たちだったが、ふと状況がおかしいことに俺は気がついた。ストーンゴーレムを倒したのだから、戦闘は終わっているはず。今の俺たちならストーンゴーレムを倒した経験値でレベルアップしてもおかしくない。それに「合体」は戦闘中にしか使用できない、いわゆる「戦闘スキル」なんだから、虹色ビッグスライムも元のスーラたちに戻るはずだ。それなのに、どちらも起きていない。もしかして戦闘状態が継続しているのか!?
「おい、戦闘状態が終わってないぞ! まだ何かいるかもしれないから警戒を怠るな!!」
俺がそう叫ぶと、ハッとした仲間たちも周囲を見回して警戒態勢に入る。そんな状況でボス部屋の真ん中に強烈な光が発生した!
「まさか『二段ボス』!?」
「『試練の迷宮』で起きたなんて聞いてないわよ!」
焦って叫んだ俺に、アイナが叫び返す。
だが、そこに現れた「存在」はモンスターっぽい外見はしていなかった。一見すると人に見える。もっとも、人型モンスターというのも存在はしているので油断はできない。
ただ……どう考えても戦闘的な外見には見えないんだよなあ。すんげえデブ……もとい、ふくよかな体型をした若い女性なんだよね。若い女性型のモンスターもいないわけじゃないけど、普通は男性冒険者を油断させるために美女の姿をしているんだわ。いや、この女性もよく見ると顔立ちは美人だから、体重が三分の一になったら美女って言えるのかもしれないけど。それと、この体型で神殿にある女神像がまとっているような薄衣一枚という服装はやめてほしいんですが。
……神殿の女神像がまとっているような服装?
俺がそのことにひっかかりをおぼえたときに、そのふくよかな女性は口を開いた。
「警戒しないでください。わたくしは『スライムの女神』です。名前は『スライミースライマー』と申します。あなた方にお願いがあって現れました」
「スライムの……女神?」
「はい、この世界のスライムを司る女神です。世にあまたいる神の中でも末端の一柱にすぎませんが、一応は神をやっています」
「そういや、神様は八百万くらい存在してるって噂だもんなあ」
一番メジャーな神様ってのは「創造神」で「名前を呼んではいけない神様」だそうなんで「
ただ、ほかにも「戦いの神」とか「智恵の女神」とか「火を司る神」とか、いろいろと神様はいて、比較的メジャーな神様は自前の神殿を持っていたりする。ときどき、こうやって信者の前に降臨することもあるって話だ。そこまでメジャーじゃない神様を合わせると、総数は八百万を超えるなんて話を聞いたことがある。
それにしても、モンスターを司る神として「
そんな俺の気持ちがわかったのか、スライミースライマーと名乗った女神は、真面目な顔になって俺たちに向かって口を開いた。
「わたくしと契約して『使徒』になっていただけませんか?」
「何か
即答した俺に、がっくりとうなだれる
「今、この世界に危機が迫っています。この世界の外から恐るべき脅威が襲来しつつあるのです。わたくしたち、この世界の神々は、その脅威に対抗すべく自らの使徒を選んで祝福を与え、力を
「この世界の外? 脅威?」
「はい。この世界のほかに『異世界』があることは、あなた方もご存じですよね?」
「うむ、この黒髪黒目を見ればわかるとおり、我は『異世界ニホン人』の子孫だぞ。同じく黒髪黒目であるリョウもそうではないのか?」
そう言いながら眼鏡を外して自分の黒い瞳を見せるクミコ。こいつ、普段は瓶底眼鏡かけてるからわかりにくいんだけど、外すと顔立ちは整ってるんだよなあ。
「ああ、俺の
クミコに聞かれたので俺も自分の
この大陸には黒目黒髪の人間は元々存在していなかったという。でも、今では十人にひとりくらいは見かける。その全員が「ニホン」という異世界から
ちなみに、この大陸全土で通じる「帝国共用語」は「ニホン語」とそっくりらしい。なお、遥か昔の古代文明期に使われていて、魔法やスキルの名前にその
ただ、異世界ニホン人というのは、もの凄く強力なスキルを持っていたり、この世界に転移してきたときから凄くレベルが高かったりと、冒険者としては相当な実力を持っていることが多い。それで目立った活躍をする場合が結構あるので、黒目黒髪だと、一部でもその実力やスキルを受け継いでいるんじゃないかと思われることが多いんだよなあ。実際はスキルとかは遺伝しないんで、黒目黒髪なだけで一般人と変わらないんだけどな。
だから異世界ってのが存在してるのはわかるんだが「脅威」ってのは何だ?
俺たちがそう思ったのがわかったのか、スライミースライマーは説明を続ける。
「異世界というのは数多く存在しています。ニホン人のように偶然この世界に
「「「「「「「「侵略!?」」」」」」」」
穏やかでない言葉に、俺たちの声がきれいにハモった。
何しろ、全然身近な言葉じゃないからな。帝国がこの大陸全土を統一し戦乱の時代が終わってから既に百五十年以上が経過している。帝国に存続を許された従属王国が何か国か一応自治を認められて大陸各地に存続はしているが、とてもじゃないが帝国に反逆できるような戦力は持っていない。毎年、皇帝陛下に拝謁するために国王が家臣を引き連れて帝都まで移動することを義務づけられていて、それに膨大な費用がかかるので財力的にも
ほかの大陸とは細々とながら交流があるが、大陸同士を隔てる大洋は非常に広大で、一隻二隻の冒険商船が渡っていくならともかく、大軍を乗せた艦隊が押し渡ることなんて不可能だ。テレポートの魔法だって一度行った所にしか行けないし、そもそも少人数のパーティーならともかく大軍を一度に瞬間移動することはできない。大陸間戦争なんて夢物語でしかないんだ。
つまり、モンスターの脅威は日常的に存在しているが、人間同士が行う戦争なんてのは遥かに遠い昔のことなんだ。
そんなわけで、全然実感できない言葉に目を白黒させている俺たちに、スライミースライマーは説明を続ける。
「異世界ニホン人を見ればわかるように、異世界人はこの世界に来ると強大な力を持っていることが多々あります。ひとつの異世界が侵略の意図をもって攻めてきたならば、その脅威は計り知れないことになるでしょう。そして、それに近い状態が起きようとしているのです」
「異世界全体の侵略?」
「それに近いですね。この大陸を統べる帝国と同程度の規模の国家が侵略を目論んでいるのです」
「そんな!?」
スライミースライマーの言葉にゾッとする。異世界ニホン人みたいな強力なスキルを持っているのが普通の連中が帝国軍みたいに大量に攻めてきたら、どうやって対抗すればいいんだ?
戦慄する俺たちを見て、スライミースライマーは更に言葉を続ける。
「ただ、あちら側も一枚岩ではありません。現在は一部の急進派が秘かにこの世界に侵入して侵略の下準備を行っている段階です。今のうちに侵略の芽をつぶしていけば、あちら側でも内紛が起こって侵略計画が頓挫する可能性は高いでしょう」
「それじゃあ……」
「そうです、その侵略計画をつぶすために戦って欲しいのです。そのために、わたくしはあなた方を選んで『力』を授けました」
「へ、『力を授けた』って? 既にもらってるってことか?」
思わず問い返した俺にスライミースライマーはうなずいて答えた。
「はい。あなた方八人がちょうど同じ頃に
それを聞いた俺たちは、再びきれいにハモって叫んでいた。
「「「「「「「「お前のせいかあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」」」」
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