第8話 無敵スライム爆誕!
俺の横を飛んでいった小さな火球は、ストーンゴーレムの胴体にぶち当たったものの、軽い焦げ跡をつけたくらいで消える。ダメージはほとんど与えていない。
さらに、水球、砂塵、光球などが次々に飛んでいってストーンゴーレムに当たるが、これまた全然効いていない。さらに雷撃と闇の雲が飛んでいくものの、これもほとんどダメージを与えていない。
最後に飛んでいった風の刃がストーンゴーレムの胸を軽く切り裂く。おお、これは俺のエアカッター程度には効いている!
だけど、これを撃ったのは一体? ……と考えたところでハッと気付いてふりむくと、そこには俺たちの召喚獣であるスライムたちがふにょんふにょんとうごめいていた。
そうか、今のはこいつらのブレスだ。俺たちの攻撃が効いていないのがわかって、自分たちも攻撃に参加したってわけだ。何て
それに、これで希望が見えてきた。さっきの風の刃はイリスの召喚獣であるエアロスライムのウインドが放ったブレスだろう。これが効くならストーンゴーレムに対しても勝ち目はある。
「イリス、ウインドの風属性ブレスはストーンゴーレムに効いてるぞ!」
だが、嬉々として叫んだ俺に対して、イリスは苦渋の表情で答えてきた。
「あのブレスはMPを消費するんだ。今のウインドの残MPだと、あと三発しか撃てない」
それを聞いて、俺の笑顔も凍りついた。ストーンゴーレムのHPを削りきるには全然足りないじゃないか!
マズい。今はまだカチュアがストーンゴーレムの攻撃に耐えていられるし、ウェルチが治癒魔法でカチュアを癒やすことができるから結構持久はできるだろう。だが、こいつを倒す手段が無い。そのうちにウェルチのMPが尽きて回復魔法がかけられなくなり、カチュアが倒れたらそこまでだ。俺が盾役をかわったとしても、耐久できる時間はそんなに長くはないだろう。
「全滅」……そんな言葉が頭の端をよぎる。畜生、あれほど先輩冒険者たちに「
噛んだ唇から流れた血が口の中を苦く染めていくのを感じながら、俺は必死で考えていた。何か、何か手は無いか?
そのとき、唯一ブレス攻撃に参加していなかった俺のスライム、スーラが俺に何かを訴えてきた。
召喚獣と召喚士の間には絆があって、ある程度の意思疎通はできるが、完全に召喚獣の考えがわかるわけじゃない。モンスターとは思考形態が違いすぎるからな。でも、何かをやりたいという意志はハッキリとわかった。
ブレスも吐けないノーマルスライムでしかない俺のスーラ。攻撃力も防御力も最低で、とてもじゃないがストーンゴーレムと戦える力なんか持っていない。直接攻撃に行ったりしたら瞬殺されるだけだろう。だけど、俺のために、少しでも役立ちたいと思ってくれているんだ。
いいさ、このままだったら、どのみち全滅だ。普段なら止めるんだろうが、今だったら、お前が命をかけてまで何かをやってくれるというなら、それを止めたりはしないさ。
「よし、何かわからんけど、やってみろスーラ!」
ふにょん!
俺の命令を受けて、スーラが嬉々としてうごめくと、何かのスキルを発動した……って「合体」!?
スーラとの絆で、スーラが何をやったのかはわかったんだが、今この場で「合体」スキルを使って何の意味があるんだ!? だって、お前と合体できるノーマルスライムなんて、この場には一匹もいないじゃないか!
そんな風に考えていた俺の目の前で、予想外の光景が繰り広げられ始めた。
スーラを中心に、ルージュ、ウインド、マリン、クレイ、ビアンカ、ソレイユ、ノワールが横一列にならぶと、ふにょんふにょんとスーラめがけて移動を始めたんだ。そして、まずルージュがスーラにくっついて、ふにょ~んと溶け合い始める。
えっ!? と驚く間もなく、ウインドが、マリンが、クレイが、ビアンカが、ソレイユが、ノワールが、それぞれスーラにくっついて、ふにょ~んと溶け合っていく。
これは融合……いや、これこそが「合体」なのか!
「な、何なのこれ!?」
「これは、まるでビッグスライムの合体みたいな……」
「不思議ですぅ」
「こんな光景は見たことがござらん」
「理解不能」
「どうなっていまして?」
「……興味深い」
俺と同じように驚愕する仲間たちの目の前で、スーラたちは完全に融合し合って、合体を果たした。
そこには、一匹の巨大なビッグスライムが誕生していたんだ!
それも、ただのビッグスライムじゃない。その透明な体は赤や青や黄色や緑や、さらにそれらが溶け合って紫やオレンジ、茶色といったさまざまな色に千変万化してダンジョン内の薄明かりを反射しており、ときには白や黒や金色にも変化している。
「きれいだ……まるで虹みたいだ」
俺は思わずつぶやいていた。それを聞いた仲間たちもうなずいている。
と、その虹色ビッグスライムがふにょ~んと大きくひとつうごめくと、ストーンゴーレムめがけて動き出した。
ふにょん、ふにょん……
……巨体の割に迫力が無いのはしょうがない。だって、いくらデカいとはいっても、こいつがスライムであることに変わりはないんだから。
だが、だからこそ、こいつはストーンゴーレムみたいな打撃攻撃が主体の敵に対しては、恐ろしく相性が良いはずだ。
ストーンゴーレムは目の前にやってきた虹色ビッグスライムを敵と認識して、その豪腕をふりかぶって振り下ろしてきた!
くにゃっ。
そのダンジョンの床さえ叩き割れそうな迫力のある一撃は、しかし虹色ビッグスライムの一部をへこませただけだった。その、究極にやわらかい体は、ただ無抵抗に攻撃を受け止め、受け流す。
「物理打撃無効」。
ビッグスライムの持つ
ただ、スライム種は、この耐性を殺してしまう特有の弱点も必ず持っている。体内にある「
通常の小さなスライムだったら、白色のシャインスライムや金色のゴールドスライム、それに半透明な黒色のダークスライムは別として、その透明な体を通して
だけど、これが巨大種のビッグスライムとなるとスキル性能が向上して物理打撃が一切効かなくなる。だから、物理的な攻撃ではなく七属性どれかを使った魔法攻撃で倒すのが一般的だ。
しかし、ストーンゴーレムは魔法攻撃ができない。つまり、虹色ビッグスライムを倒す手段が無いってわけだ。
もっとも、こっちにも有効な攻撃手段が無いんだが、これで少なくとも千日手には持ち込める。クミコの残りMPで撃てるエアロボムで大きくHPを削っておいてから、チマチマと俺とイリスが少しは削れる攻撃を続けていけば、いつかは倒せるはずだ。全滅を覚悟したさっきまでに比べると、随分と希望が出てきたぞ!
……そんな風に思っていたことが俺にもありました。
ふにょん。ストーンゴーレムのあらゆる攻撃を無視した虹色ビッグスライムは、そのまま巨体をもってストーンゴーレムにのしかかっていき、やわらかい体でストーンゴーレムの頭部を包んだ。それと同時に虹色だった体が特に強く緑色に輝く!
バシバシバシィ!!
強烈なダメージエフェクトと共に、ストーンゴーレムの体に表示されていたHPバーが残り三分の一くらいまで急減する。クリティカルヒットだ!
「今のは風属性のブレスよね?」
「相手を包み込んで、威力を外に漏らさないようにして直撃させたんだね」
「凄いですぅ!」
「何という威力でござるか」
「驚異的」
「ヲーッホッホッホッホ! さすがはわたくしたちのスライムちゃんですこと!」
「我のエアロボムよりも強力とは……」
半ば呆然としながらも驚嘆する俺たち。どうやら仲間たちも俺と同様に自分のスライムとの絆を通じて、あの虹色ビッグスライムとつながっているらしい。
と、そこで我に返った俺はクミコに指示を飛ばす。
「クミコ、エアロボムだ! 今なら残り二発でも倒せる!」
「む、確かに! 今こそ我が魔法の見せ所……我のエアロボムの餌食となるがよい!!」
クミコが放ったエアロボムがストーンゴーレムを直撃し、HPバーが残り二割を切る。よし、これであと一発エアロボムが入れば終わりだ!
だが、その瞬間は永遠に来なかった。
にょろ~ん。
虹色ビッグスライムの一部が触手のように伸びると、クルクルとストーンゴーレムの胴体に巻きつく。
ギュギュッ!
その触手がストーンゴーレムを締め上げていく。そして、ストーンゴーレムの胴体にピキピキとヒビが入り始め……
バキッ!!
その胴体が真っ二つに割れると同時に、
「あ……」
「倒しちゃった?」
アイナが思わず疑問系で尋ねてきたのも無理はない。それほど、あっさり倒してしまったんだから。
そうだった、ビッグスライムってノーマルスライムと違って意外に強いんだよ。物理攻撃は効かないし、かなり力が強いんで
「やった、勝ったぞ!」
「凄い凄い!」
「あの風属性ブレスはウインドの能力を引き継いでるんだろうね」
「強いですぅ!」
「これなら一族を見返せそうでござる」
「無敵」
「ヲーッホッホッホッホ! さすがはあたくしたちの虹色スライムちゃんですわ!!」
「わ、我の見せ場が……」
ひとり落ち込むクミコを尻目に、俺たちは勝利の喜びに沸き立つのだった。
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