第5話 外れの中の外れ

「なあ、みんなのスライムも何かスキルをおぼえたか?」


 思わず聞いてしまったところ、それぞれ返事が返ってきた。


「あたしのルージュは『火のブレス』をおぼえたわよ」


「ボクのウインドは『風のブレス』だね」


「わたしのマリンは『氷のブレス』ですぅ」


「拙者のクレイは『砂のブレス』でござった」


「私のビアンカは『光のブレス』」


「ヲーッホッホッホッホ! さすがはあたくしのソレイユ、『いかづちのブレス』をおぼえましたわ!」


「クックック、我のノワールは漆黒の闇をもららす『闇のブレス』なり……」


「うーん、それぞれの属性のブレスなのか……」


 俺の仲間たちが召喚するスライムは、きれいに七属性に分かれてるんだよなあ。アイナのルージュは火属性のフレアスライム、イリスのウインドが風属性のエアロスライム、ウェルチのマリンが水属性のアクアスライム――氷は水属性に含まれる――、オリエのクレイが地属性のアーススライム、カチュアのビアンカが光属性のシャインスライム、キャシーのソレイユが金属製のゴールドスライム――雷とか電撃は金属性に含まれる――、クミコのノワールが闇属性のダークスライムだ。だから、それぞれの属性のブレスをおぼえても不思議じゃない。


 しかし、俺のスーラは属性の無いノーマルスライム。攻撃魔法だと無属性の「マジックアロー」ってのがあるけど、無属性ブレスなんて聞いたことがないから、スーラはブレスをおぼえなかったんだろうか?


 ただ、その代わりだとしても、「合体」なんてスキル聞いたことがないんだけどなあ……と首をひねっていると、アイナが聞いてきた。


「その感じだと、スーラがおぼえたのはブレスじゃなかったの?」


「ああ、『合体』なんて聞いたことのないスキルをおぼえたんだ。誰か知ってるか?」


 そう聞いてはみたものの、みんなも聞いたことはなかったようで俺と同じように首をひねっている。


 と、イリスが何かを思いついたのか、手を打って言った。


「これはビッグスライムに合体するスキルじゃないのかい?」


「ああ、なるほど!」


 そう言われて俺も気付いた。そういえば、巨大種であるビッグスライムというのは、ノーマルスライムが八匹合体して生まれるんだった。俺自身も目の前で合体するシーンを見たことがある。


 あれ、不思議なことに、どう考えても元の八匹のノーマルスライムを合わせたより大きくなるんだよなあ。体積も体重も、元の八匹分より明らかに大きいんだ。さらに、HPも明らかに元のスライムの八倍以上ある。能力値ステータスは見たことがないけど、体感でも攻撃力は元のスライムの八倍以上になってそうだ。


 まあ、モンスターなんて理不尽なシロモノだから、そういう不思議なことはよくあるけどな。どう考えても体を支えられないような小さな翼で飛んでたりするヤツもよくいるし、骨だけしかないスケルトンとか普通は動けないだろうし。だから考えてもしょうがない。


 とはいえ、合体かぁ……このスキルってよく考えてみたら……


「使えねえ!」


 思わず叫んでしまった。だって、これはノーマルスライム同士が合体してビッグスライムになるスキルじゃないか。俺が召喚できるスライムはスーラ一匹なんだから、合体させる相手がいない!


召喚士サモナー本人がレベル上げたら召喚するモンスターの数を増やせたっけ?」


「いや、召喚できるモンスターは一種類一体が原則だよ」


「ゾンビとかスケルトンを大量に召喚してる召喚士サモナーが居たような気がするのでござるが?」


「クックック……あれは召喚士サモナーではなく死霊術師ネクロマンサー……死人しびとを操る冥界の使い……」


 アイナたちも色々と相談しているが、やっぱりこのスキルは使い物になりそうもない。何てこった、俺は同じスライム召喚士サモナーの中でも、また外れを引いてしまったのか……思わずガックリとうなだれてしまう。


「元気を出すですぅ。ノーマルスライムは成長力が一番高いですぅ」


 そんな俺を見てウェルチが慰めてくれた。元僧侶プリーストだけあってEQ気配り力が高いんだよな。


 そう、ウェルチの言う通りだ。ノーマルスライムは元は一番弱いだけあって成長力は一番高い。伝説のスライム召喚士サモナーみたいに、レベル99まで育て上げれば俺のスーラが最強になってくれるさ!


「そうだ、このスーラを最強に育て上げて、スライム王に俺はなる!!」


 俺がそう叫ぶと、みんな苦笑した。いや、いいだろ別に。確かに、ここ十年ぐらい帝都の劇場で一番人気の演劇のセリフをパクってるけど、暗く落ち込んでるよりは空元気でも出してる方がいいじゃないか。


 ……訂正、クミコだけは深く賛同するみたいな感じでうなずいていた。待て、俺は今のはネタでやったんだからな! お前の同類十四歳病だと勘違いするなよ!?


 ともかくも、討伐対象だったオークの群を倒したので、俺たちは一度「冒険者ギルド」に戻ることにした。


 俺が瞬間移動の魔法「テレポート」を使うと、八人全員が「カナイ」の町の門前に立っていた。この魔法は、一度行ったことがある町や村なら、どこへでも行けるんだ。魔法を使用するときに消費する魔力MPもそんなに多くないので、戦闘でMPを使い切っていなければ街に帰るときに便利なんだよな。


 今回の冒険の起点となったカナイの町は、はっきり言えば田舎町だ。ただ、大昔に有名な吟遊詩人が出たとかで、その記念館を建てて町おこしの目玉にしている。何でここから冒険に出たかというと、今の俺たちのレベルで問題なく倒せそうな程度の強さのモンスターがこの町の周囲に生息しているからだ。


 俺たちは転職ジョブチェンジしたばかりでレベルが1に下がり、能力値ステータスは半減状態だ。とてもじゃないが転職ジョブチェンジ前に相手にしていたようなレベル帯のモンスターと戦える状態じゃない。そこで、今の自分たちの戦闘能力を確かめることと、同時に可能なら少しでもレベルアップするために、一番適切そうなモンスターがいる所までやってきたというわけだ。その目論見は当たって、オークたちは余裕で倒せたということさ。


 カナイの町も一般的な町や村と同じで、周囲はモンスターよけの高い塀に囲まれている。この塀にモンスターを寄せ付けない永続的な結界が張られているので、飛行系のモンスターや地中に住むモンスターも町には入ってこられないんだ。町の外の田畑にも同じ結界は張られているけど、そっちは塀がなくて永続性は無いから、毎年結界を張り直す必要がある。


 町の門番をしている帝国巡検隊の兵隊さんに、身分証明書としても使える「冒険者免許ライセンスカード」を見せて通してもらうと、冒険者ギルド目指して町の大通りを歩いて行く。


 街の中心の繁華街にある石造りのいかめしい建物が、この街にある冒険者ギルドの建物だ。中に入ると、受付カウンターがいくつか並んでおり、その中で職員が冒険者に応対していた。


 このカナイの町は、Dランクに上がりたてのパーティーあたりが戦うのにちょうどよいモンスターが周囲に多いので、そこそこ人が多かったりはするんだ。


 ちなみに、冒険者ギルドは「同業者組合ギルド」と呼ばれてはいるけれど、実態は帝国政府の機関で、つまりは役所だ。大昔に発足した頃は冒険者が集まって仕事を融通し合ったり、困ったときに助け合ったりする本来の意味での同業者組合だったんだけどね。冒険者という戦闘力が高い自由人フリーランスの力が集まると、それなりの武力になるので、帝国政府が統制する必要性を感じて、公的機関にして政府の管理下に置かれることになったんだ。最低限の戦闘能力と素行を確認の上で免許ライセンスが発行される。っても、素行確認の方は筆記試験だから、実際はザルみたいなもんだけどな。


 だから、昔は無頼が多かった冒険者も、今じゃあきちんと帝国政府の管理下にある。帝国兵や民間人相手にトラブルなんかを起こしたらライセンス剥奪の上で豚箱けいむしょ行きだ。まあ、冒険者同士の喧嘩やいじめくらいは大目に見られてるけどな。


「それじゃあ、ボクたちは宿に行ってるから討伐報告の手続きはよろしく頼むよ、


 そう「リーダー」を特に強調しながら、イリスがライセンスカードを取り出して、俺に渡しながら言った。


「そう強調するなよ……」


 ぼやきながらも、ライセンスカードを受け取る。そう、俺がウチのパーティーのリーダーをやるんだ。


 俺は、思わずそのときのを回想していた。

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