第3話 七人のサモナー(俺自身は数に入ってない)

「オリエよ、そなたを我が一族から追放する。しのびにふさわしくない召喚獣を得た者を一族に置いておくわけにはいかぬのだ。これも厳しき忍の掟……悪く思うな」


「あんまりでござる! 誰が『アーススライム』は忍にふさわしくないと決めたのでござるか!?」


 ニンジャ装束しょうぞくと呼ばれる特殊な服を着込み、ピンクの髪を左右に結ってツインテールという髪型にしている少女が黄透明なスライムを抱きかかえて叫んでいた。


「カチュア、ごめんね。何とかパーティーに残してあげたかったんだけど、召喚獣が『シャインスライム』じゃ、ほかのみんなを説得できなかったのよ」


「……仕方ない」


 足元に白色のスライムを連れた、鋼鉄の全身鎧フルプレートに身を固めてボブカットの銀髪で銀色の瞳をした少女が、奇妙に感情を感じさせない口調で答えていた。


「お前は追放だキャサリン。今まではその性格の悪さにも目をつぶってきたが、よりにもよってスライムしか召喚できない召喚士サモナーなんぞに転職ジョブチェンジしたヤツをパーティーに入れておくメリットは何も無いからな」


「ヲーッホッホッホ! ふざけたことをおっしゃらないでくださる!? この貴重な『ゴールドスライム』である『ソレイユ』の価値を理解できない愚物どもの仲間でいることなど、あたくしの方から願い下げですわ!!」


 かなりの長身でボン、キュッ、ボンって感じでメリハリが凄い体型に薄手のドレスをまとい背中には長弓と矢筒を背負っていて、縦ロールの金髪と碧眼で彫りの深い顔の美女が、金色のスライムを手にして高笑いしていた。


「なあ、クミコ、本当にすまないと思っているんだが、これ以上黒魔法の使い手は必要ないんだ。それに『ダークスライム』なんて不気味な召喚獣がついてきちまったんで、ほかの連中も怖がっていてな……わかってくれよ、頼む!」


「いや……われを追放するなどという所行しょぎょう、絶対に許さぬ……恨む……憎む……呪う……」


 ウェーブのかかった長い黒髪の上に黒い三角帽子をかぶり、黒いローブを着込み、手にはねじくれた形の木の杖を持つという典型的な魔術師メイジスタイルで、顔にはレンズが分厚い丸眼鏡をかけた少女が、足元に連れている黒透明のスライムより更にどす黒そうな印象を与える低い声で怨嗟えんさのつぶやきを漏らしていた。


 目の前で繰り広げられている、どこかで見たような光景の連発に、俺は思わずアイナたちに向かって尋ねていた。


「なあ、思った以上にスライム召喚士サモナーって多いのかな?」


「いえ、これは明らかに異常よ」


「ともかく、彼女たちにも声をかけてみよう」


「わかりましたですぅ」


 先ほど仲間に加えたばかりのウェルチも一緒に、俺たちは手分けして四人のスライム召喚士サモナーを勧誘することにした。


 そして、同じ「想い」を共有することがわかった俺たちは、パーティーを組むことにしたんだ。


 そこで、互いに軽く自己紹介したあと「冒険者ギルド」に行ってパーティー結成の申請をすると、さっそく近場のモンスターの討伐依頼を確認して、生息場所まで狩りに来たわけだが……


「必殺必中、『サンライズショット』!」


 ゴージャス美女のキャサリンが長弓を引き絞って、かなりの高角度で放った矢は、そのスキル名「サンライズショット」を体現するかのように旭日きょくじつ昇天しょうてんの勢いで空高く舞い上がり、きれいな放物線を描いて、ほぼ真上の角度から「オーク・メイジ」――直立歩行する豚のモンスターで黒魔法を使う――の脳天に突き立った。こいつは、大抵のモンスターにとっては急所である頭頂部を攻撃して大きな打撃ダメージを与えるスキルなんだ。


 バシィ!


 左耳に聞こえる衝撃音と同時にオーク・メイジの頭部に光が舞い、その体に数字が表示される。あれはオーク・メイジの頭部に攻撃が当たったことを示しているんだ。数字は敵に与えたダメージの値だ。


 これは、もちろん実際に音や光や数字が出ているわけじゃない。俺の左目から左耳にかけて装備された魔法道具マジックアイテム密偵の片眼鏡スカウトモノクル」を通して聞こえる音や見える光と数字なんだ。攻撃が当たったことを感覚的にわかりやすくするための機能で「ダメージエフェクト」って名前が付いている。


 そのダメージエフェクトが表示されると同時に、オーク・メイジの上に表示されていた体力を示す「HPヒットポイント」の数値が急減する。敵の残HPを視覚的にわかりやすくするために数値の上に表示されている「HPバー」という棒グラフの長さが一気に半分くらい減る。


 この密偵の片眼鏡スカウトモノクルは「鑑定」スキルと同等の能力がある魔法「リサーチ」が常時発動していて、見た相手の体力=HPや当たった攻撃の威力などを数値化して見ることができる魔法道具マジックアイテムなんだ。俺たちみたいにモンスターを倒す仕事をしている冒険者には必須の道具だ。


「ヲーッホッホッホッホ! わたくしの弓の実力、ご覧になりまして!?」


「さすがだぜキャシー!」


 俺は即座にキャサリンを褒め称えた。元弓射手アーチャーだけあって、転職ジョブチェンジ後もその腕は衰えていないようだ。なお、キャシーってのは彼女の愛称で、気に入った相手にしか呼ばせないそうなんだが、初対面で俺たちと意気投合した彼女は「あなたたちには特別にキャシーと呼ぶことを許してさしあげてもよろしくってよ!」と言ったので、遠慮無くそう呼んでいる。


 大人びたアダルティな服装をしているので結構年上かと思ってたら、俺より一歳年上なだけの十八歳だった。一見すると高ビーで面倒くさそうな性格っぽく見えるんだが、確かに愚痴や文句は多いものの、パーティーリーダーの指示には意外に素直に従うし、特にケンカっ早い性格でもないので案外掘り出し物だったかもしれない。


 そんなことを思っていたら、次の攻撃の声が聞こえてきた。


「忍法『風塵乱舞ふうじんらんぶ』、ハッ!」


 ニンジャ装束の少女オリエが、その場で竜巻のように体軸を中心にして高速回転しながら手から「十字手裏剣」と呼ばれる十字型で平べったい形の特殊な投げナイフを何枚も放つ。この「風塵乱舞」ってのは複数の敵を狙える中距離攻撃のスキルみたいだな。


 それらは、少し離れた位置にいたオークどもの群れに狙いあやまたず命中して、それぞれにダメージエフェクトが表示される。特に、先ほどキャシーの弓が当たっていたオーク・メイジのHPは既に残り四分の一を切るくらいまで減っている。


 このオリエって子は、まだ十六歳なのに元は上級職である「ニンジャ」だったという、なかなか凄い経歴の持ち主だ。


 ニンジャというのは、「密偵スカウト」と同じように罠を見抜いたり外したり、扉や宝箱の鍵を開けたりすることができる職業ジョブだ。ただ、下級職である密偵スカウトがあまり戦闘には向かないのに対して、ニンジャは近接戦闘や中距離支援も可能な戦闘力を持っている上級職なんだ。


 さっきは複数攻撃できるスキルを使っていたけど、「忍法」というスキルグループには、そのほかにも気配を消したり姿を隠したりするスキルが多くあるので奇襲戦が得意で、素早さを生かした小刀による近接戦と、さっき使っていた手裏剣による中距離戦ができる。


 普通は十五歳で最初に職業ジョブに就くときは上級職を選ぶことはできないんだが、まれに上級職に就けるだけの高い能力値ステータスを持っている人がいて、そういう人は最初から上級職に就くことができるんだ。


 オリエもそういうエリートなのかと思っていたら、本人いわく代々ニンジャを輩出してきたモモチ一族の出身で「幼少期からニンジャになるために鍛えられていたので『成人の儀式』でニンジャの職業ジョブを得ることができたのでござる」とのことだった。最初からニンジャ向きの能力値ステータスになるように育てられてきたらしい。言葉使いが少し古風で男っぽいのは、そのモモチ一族の風習なんだとか。


 ただ、モモチ一族はニンジャとしてある程度経験を積み、召喚士サモナーになれるだけのステータスを得たら転職ジョブチェンジしてニンジャにふさわしい召喚獣を得ることになっているんだそうだ。それで召喚士サモナーに転職したところ召喚獣が巨大ガマガエルのモンスター「ジャイアントフロッグ」や大鷲のモンスター「ヒュージガルーダ」などの「ニンジャにふさわしいモンスター」ではなくアーススライムになってしまったので、一族を追放されてしまったんだそうな。


 それで、自己紹介のときに「アーススライムがニンジャにふさわしくないというのは偏見でござる! 拙者は何としても、このアーススライム『クレイ』を鍛え上げて、アーススライムだってニンジャの召喚獣にふさわしいことを証明して見せるでござる!!」と宣言していたんだけど、それを聞いたメンバー全員が俺も含めて拍手をしていたな。気持ちはみんな同じなんだ。


 ……にしてもニンジャってのは、普通は隠れたり忍んだりするのが得意なはずで、ニンジャ装束ってのもそのための服装だと思ってたんだが、なぜか彼女のニンジャ装束はド派手なピンク色で、しかもミニスカートだったりするんだよなあ。ミニスカートの方は動きやすさ優先なのかもしれないが、あのド派手なピンク色は何なんだろう?


 髪の毛の方も、ツインテールって髪型は比較的よく見かけるんだけど、ピンク色なんて地毛があるとは聞いたことが無いから、あれ染めてるんだよな。青い目と白い肌で少し幼めの風貌ふうぼうには良く似合ってはいるんだけど、あれだけ派手な色にしている理由は謎だ。それとも、おしゃれの一種なんだろうか?


 それはともかく、キャシーとオリエの先制攻撃で敵オークの群には結構なダメージを与えている。特にオーク・メイジは攻撃魔法を使って来る前に何とか倒したいところだ。


 そう思っていたところ、アイナが精霊魔法を放つ声が聞こえた。


「火の精霊よ、あたしに力を貸して! 『ファイヤーアロー』!!」


 それと同時に、アイナが右手にかざしていた松明たいまつの炎から一筋の火の矢が形作られてオーク・メイジに向かって飛ぶと、その頭を貫いた!


 ダメージエフェクトが表示されると同時に、オーク・メイジの残り少なかったHPバーがぐんぐんと減っていき、そのまま消えてしまう。HPの数値もゼロになっている。よし、倒したぞ!


 今のところ、俺たちの新生パーティーの戦闘は順調だ。さあ、この勢いで残りの連中も倒してやろうか!

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