化け物は寂しさを知らない
亀吉
夜は大蛇身動ぐ化け物たちの狂気
この国には
主に国の端に夜な夜な現れ、人に襲い掛かる迷惑千万で理性のない連中だ。
理性がないとあって、人に襲い掛からなければ田畑を荒らし建物を壊す。活動地域は国の端が主であったが、食うものがなければ村や町を探して襲うし、放っておけば人のいる場所で好き放題する。
人だけでなく、国にとっても厄介な化け物だ。
そんな化け物に俺は今、襲われている。
「俺が見回ってるときに限ってなんで出てくんだよ……!」
国の端にある光る大蛇の壁、
そいつは俺を見つけるなり喉に噛みつかんと駆け出し、飛び掛る。
俺は吸っていた煙草を丸呑みし、飛び掛ってきたそいつを……犬型の夜者を蹴飛ばした。
「この前も犬じゃなかったか……っ」
嫌々ながら見回りに出れば、廃屋の影から飛び出した犬に襲われる。
そんなことがここ三日ほど続いていた。
犬は揃いもそろって赤毛で痩せており、機敏に動くが体力はない。
一度蹴ったくらいでは逃げず、何度でも俺の首を狙ってくる根性がある。
犬にしては手強い、しかし夜者にしては弱いという中途半端な犬だ。
今もよろよろと瓦礫の上に立ち上がり、俺の隙を探しうなっていた。
俺は懐から短剣を取り出し、鞘を犬に向かって投げつける。
すると犬はびくりと身を震わせ、一瞬ひるんだ。
俺は犬を睨み付け、口を開いた。
「この刃は狼の血、クレムナムの命水。ならば刃は鉄に非らず」
短い刃なら皮毛ではばめると考えたか、それとも腹でも減っていたのか。
犬は恐れることなく牙を見せ、俺に覆いかぶさろうとした。
俺は一歩踏み出し、短剣を一閃する。鉄の刃はその毛にかすりもしない。
しかし俺を飛び越した犬は、再び俺を襲うことはなかった。
「早く帰りてぇのになぁ」
ぼやいても、夜者と遭遇したという事実は変わらない。俺はゆっくりと振り返る。
そこには黒い血を流し倒れる人の形に似た異形がいた。
「まだ人の形に寄るのかよ。しかもこの程度で倒れるくせに息もある。また医院行きか」
これほど弱い夜者が人型に戻ることはとても珍しいにもかかわらず、数日の見回りで人型に戻った夜者に遭遇したのは三回目だ。
「面倒くせぇな……」
俺は煙草を探し、懐から箱を見つけた時点で舌打ちをする。
最近、賭場で金の変わりに中身をほとんど持っていかれたばかりであった。
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