図書館暮らし。
ぴおに
第1話
「はぁ…」
誰もいなくなった図書館に、小さなため息が響きます。
「今日も、しーちゃん来なかったな…」
「まぁ、気を落とすな。そのうち来るさ。さぁポム、今日も手伝っておくれ」
分厚い辞典じいさんが言いました。
「みんな、ちゃんと揃っておるか?破れたもの、落書きされたものはおらぬか?」
「僕、ちょっと破けちゃった」
「私は落書きされたのよ!ひどい!」
破けたものはテープで補強して、落書きは消しゴムで消してあげました。
「ありがとう、ポム。君がいてくれて助かるよ」
ポムがここへ来たのは、もう何日も前の事。
まだ寒くて、図書館の入り口にある桜の木は蕾の気配も無い頃。
この図書館では「お泊まり会」があって、子供達はそれぞれに自分のお気に入りのぬいぐるみを図書館に一晩預けます。
翌日ぬいぐるみをお迎えに来て、どうだったかお話を空想するというイベントを開いています。
帰りにぬいぐるみが持ち主の子供のために選んだ絵本を一冊持ち帰ります。
ポムもこのお泊まり会に参加したぬいぐるみの一つでした。
しーちゃんと一緒に図書館へ来て絵本を読んだ後、沢山のぬいぐるみ達とお泊まりしたのです。
しーちゃんと離れるのは寂しかったけど、とても楽しくてワクワクする1日でした。
翌朝、子供達がぬいぐるみを迎えに来ましたが、その中にしーちゃんはいませんでした。
「どうしたのかな?ちょっと遅れてるだけだよね?」
ポムは不安そうにつぶやきます。
だけど、次の日も、その次の日もしーちゃんは来ませんでした。
ポムは図書館の入り口に一番近い本棚の上に座って、来る日も来る日もしーちゃんを待ちました。
桜の蕾が膨らみ始めた今日も、しーちゃんは来ませんでした。
「僕の事、忘れちゃったのかな…」
ポムのプラスチックの瞳から、ポロリと涙がこぼれました。
「そんなはずないわ。きっと迎えに来てくれる。元気をだして」
やさしい絵本の少女がなぐさめてくれました。
ポムはしーちゃんの大切なぬいぐるみです。
しーちゃんが生まれた時におじいちゃんがお祝いに買ってくれた大切なぬいぐるみなのです。その上ポムは大きな犬のぬいぐるみなので、忘れるはずなんてありっこないのです。
そんな大きな犬のポムが、毎日図書館の入り口に向かって座っているので、来館者の目に必ず留まります。
桜が咲いては散りを何度繰り返したでしょう?
「おはよう、ポム」
「今日も出迎えご苦労様」
とうとうポムは図書館の看板犬になり、しまいには「ぬいぐるみ館長」になりました。
それでもしーちゃんは現れません。
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