第2話 我が名はサンダルフォン

 突然、俺たちの視界は光に包まれた。

 あ、これってあれか。天国ってやつではないのか。

 俺は死んだのか。おらは死んじまったのか。

 脳内を、古の酔っ払い昇天ソングが流れる。


 いや、待て。

 冷静に考えてそんな事があるか。

 人間が死んだら天国だの地獄だの。

 人間、死んだら無だ。消えてなくなってそれでおしまい。

 こいつが俺の信条だった。

 故に、この状況はあれだ。そう、夢だ。寝不足で運転していた俺は、きっとファミリオンを走らせながら眠ってしまったのだ。

 いかん、いかんぞ。

 目覚めろ、目覚めろー。


”お前が”


 はい!?

 目を閉じて念じていた俺の耳、突然そんな声が響いた。

 誰かいる!?

 俺はきょろきょろと周囲を見回した。

 だが、誰もいない。というか辺りを包む光が眩しくて何も分からない。


”お前が俺と同機したのか”


 なんだ、なんだ一体。


”はは、この俺が消えようと言う時に、よりによって次代は人間か! しかも見たことの無い肌の色をしている”


 勝手に話を進めるな!? なんだこれは。というかあんたは誰だ。


”我が名はサンダルフォン。七大天使の一柱にして、神の意思。罪ある者の幽閉者。そして”


 厳かな声だった。

 だけど、急にそいつ、サンダルフォンの口調はトーンダウンした。


”片割れを失い、今まさに消え行こうとする愚か者だ。ああ、愚かだとも。俺は愚かだった……!”


 なんだ、自分を責め始めた。

 まあ、なんだ。

 その、お前さ。

 元気出せ。


”……ははは、まさか人間に慰められるとはな。俺の次がお前なのは、案外運命的なものなのかもしれんな”


 お、ちょっと元気になったな。

 そうだよ。人生色々あるからな。

 仕事とか、仕事とか、残業とか……。

 …………。

 ま、まあ、多分生きてればいいこともあるって。多分。きっと。おそらく。


”ああ、そうだな。お前が俺という存在を継続してくれれば、また違う結果も現れてくることだろう。良かろう”


 そう奴が言ったあと、急に視界を覆っていた光が消えていく。

 後に残ったのは、やはり眩しい空間。

 全体がLED灯で照らされているようだ。

 だが、そこにあるものは見ることができる。

 存在するのは、俺と、ファミリオンと、トラックと……そして横たわる巨大な何か。

 恐らく、俺を見つめているあの赤い輝きは目なのだろう。人の形をしているのかどうかさえ定かではない。


”我、サンダルフォンが誓約する。

 鋼のこの身を天へと返上し、そして次代の光へ力を受け渡そう。

 我はサンダルフォンを織り成す意識の一つとなり、新たなる神の意思を作り上げよう。

 天よ照覧あれ。

 新たなるサンダルフォンの誕生である”


 おっ、ポエムかな。

 痛いなーとか思っていたら、急に俺の体が熱くなっていく。

 なんだなんだ!?

 俺は自分の体を見ると、光ってる。

 バックミラーを見ると、光の反射で眩しくてもう見れたものじゃない。

 あっ、ファミリオンも光ってる!

 あっ、トラックも光ってる!


”三身一体となり、あらたなサンダルフォンを顕現せん!”


 三位一体じゃなく!?

 不穏な雰囲気がするんですけどもおおおおお!!


 だが、俺は抗議の声をあげる暇も無く、巻き起こった光の中に溶け込んでいった。

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