※事故物件
円間
プロローグ
プロローグ1p
ここは不動産屋である。
どこの町にでもある、小さく狭くて、その狭い店内に壁紙が見えなくなるほど物件の情報の書かれたチラシが張り巡らせてあり、従業員なんて一人しかいない様な、しごくありふれた不動産屋である。
そして、今ここに、二人の人物が狭いカウンターを挟んで話し込んでいる。
一人は、ここの店員だ。
彼は禿げ始めた白髪混じりの頭を掻きながら、老眼鏡越しに目の前に広げられた物件情報がファイリングされた黒色の表紙のファイルを、うーむ、と声を上げて睨んでいる。
そして、もう一人の人物、若い女だ。
彼女は店の客で、彼女も広げられたファイルを睨んでいる。
ううーんっ……と呻き声を上げて彼女は、彼女が掛けている赤い縁の太い眼鏡が付かんばかりにファイルに顔を近づけている。
あまりにファイルに顔を近づけ過ぎて、彼女の長い髪がカウンターに広がっている。
「お客さん、お客さんがお望みの物件だと、もうコレしかないんですけどねぇ。どうします? やっぱり、条件を少し上げて別の物件にした方がいいとアタシは思うんだがね」
渋い顔をして言う店員に、彼女はファイルから顔を上げて「うーん、そんなにおススメ出来ないです? この物件。条件は私にピッタリだし、私的には何の問題も無いんですけど」と胡散臭げな表情をして見せて言った。
「いや、うち的には契約してくれて何の問題も無いんだけどね、なんて言うの? そうと知りながらわざわざおススメするのもどうなの? 的なさ」
「なら契約します」
「え?」
「契約してもそちらは問題ないんですよね?」
「いや、うちには問題無いんだけど、説明もしたしさぁ。あ、いや、でも、うーん、せめて内見しませんか? それから決めてもいいしさ」
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