本に載る男

「いかん物はいかん!」



 ったく、どこまで頭固いんだかうちのオヤジ!



「学生と言うのは将来の為に勉学に励む物だ、そんなチャラチャラした……」



 少しでも自分の意にそぐわないとすぐこれ。あげくそれをあたしだけじゃなくクラスメイトにも押し付けようとするし!


 ったくその真面目さで30年間警察で過ごして来たわけなんだろうけどなー。


「訳がわからんが最近人気がある奴なのだろう?いいじゃないか」


 そんなオヤジを持った私のあだ名はエビちゃん。人気タレントに似てるから?



 とんでもない、海老茶式部よ。


 何かと思って図書室で調べたら、100年以上前の女学生の事だって!と言うか女学生って言葉自体マジで初見だったしー。




「はあ!?どういう感覚なのだ、お前分かっていたら説明しろ」


 そんなオヤジの事を、クラスの連中はチキン親父って呼んでる。

 オヤジだってチキンが臆病者だって意味って事は知ってる。


 どうしてって?ちょっと授業が長引いただけで連絡入れなきゃどこほっつき歩いてんだってもうガンガン怒鳴るし、そんで16だってのに未だに携帯持たせてくんないし。


 そんなもん社会人になるまで必要ない、ってのがオヤジの言い分なんだけど、クラスメイトはあたしが怪しいサイトとかに引っかからないと心配してると思ってる。


 多分その事じゃないっつったら、オヤジはこれだけは言いたくなかったがったく最近の若いもんはって頭抱えちゃった。



 何、そんな父親の前でよくそんな喋り方ができるな?


 オヤジが唯一妥協してくれたのがこれ。母さんが学内であたしだけ孤立してはまずいって事で三日三晩頼み込んで何とか了解してくれたけど、内心では全く認めてないんでしょうね。


 と言うかチャンネル権も握り込んで少しでも低俗と判断したテレビ番組をあたしから断ち切ろうとするオヤジのせいで、嵐が芸能人って事さえ小学校に上がって初めて聞いたぐらいだもの。あの時大笑いされて恥ずかしかった事、絶対忘れないから!








「誰だ、お前の知り合いか!?」


 そんなうちの家の周りを、最近変な連中がうろついてる。いや知らないわよ!


 その連中たらなんかオヤジの事を四六時中かぎまわってる感じ。探偵?それともスパイ?……なんていう妄想は絶対にオヤジに言えない。そんな下らん発想一体どこから出て来たと怒鳴りつけられるのがオチだから。


 あっ呼び鈴だ。


「言葉遣いは丁重にしろ!」


 言われずともわかってますってそうしますって……同級生じゃなきゃね。


 ええっ、中央の役所の人!?あの、父に何か?


「実は私、環境省のこういう者なんですが……実はあなたを……」


 環境省の役人!?何それマジで驚きなんですけど!!


「環境省の人間が警察官に何の用です」

「いや、警察官と言うよりあなたご自身の事で、実はとある本にあなたの名前を刻みたいと……」

「それは何と言う本ですか、それを聞かねば返答はできません」

「レッドデータブックです」

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