妖精の歌
あさぎ
プロローグ
人里離れた草原に、少女はいた。
さらさらとたなびく長い銀髪。白いワンピースの袖からのびるすらりとした手足。ぷっくりと艶めく唇。くりくりとした愛嬌のある天色の瞳。整ったその顔にはそぐわない絶望が浮かんでいた。
その目に写すは戦乱の業火か。それとも積み上がっていくおびただしい数のヒトのなれの果てか。どこまでも続く、穏やかな草原の先をじっと見つめていた。
「人間が嫌いになった?」
ふと声のした方を見やると、一人の青年が傍に立っていた。草原と同じ色をした髪と目を持つ優男といった風貌の彼は落ち着いた微笑を浮かべている。
「君にそう思われるのは悲しいな」
「人間は愚かね。救いようがないくらい」
ぽつりと少女は呟いた。
「もう、たくさんだわ。」
「君は人の醜い部分ばかり目にしてきたんだよ。人間にはそうじゃない面もあるんだ。」
青年は困ったように眉を下げた。そして、少女が見ていた方向へ視線をやる。風のそよめく音だけが聞こえる、のどかな光景が広がっている。その向こうでの戦争の気配を全く感じさせないものだった。
「たしかに、君の言うように人間はひどく愚かしい。けれど、愚かな人間の作る世界は、かくも愛おしい。君にそれを伝えたいんだ」
少女に差し出された手は青年の優雅な見目からは考えられないような血豆ができ節くれ立っていた。
「どうか、あと一度だけ人間を、僕を信じてほしい。後悔はさせないから。僕と一緒にこの暖かな世界を見に行こう」
少女はしばらくの間考え込むように目の前の手を見つめていた。やがてそっと自身のそれを重ねた。
「ありがとう」
嬉しそうに笑う青年を写す少女の無機質な瞳がゆらりと揺れた。
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