この恋に僕が名前をつけるならそれは“ありがとう”
大竹宏彰
第1話 忘れられない第一印象
〜4月〜
季節は春、高校の入学式当日。不安と期待が入り混じる高校生活への第一歩。ただ、他の人よりも緊張や不安が薄いのは、入学前から練習に参加している野球部のやつらがいるからだろうか。
??『おーい大竹、そろそろ入学式始まるんだから早く教室入れよなー』
俺『うるさいわー、武内もはよせーや』
武内『はいはい!んじゃまた後で!』
俺の名前は『大竹 宏彰』、めちゃくちゃ勉強が出来るわけでも、野球がめちゃくちゃ上手いわけでもない俺は家から一番近い県立高校に入学した。小学生の時には野球で神童なんて呼ばれたこともあったりしたけど、それは遠い昔の話。
同期の野球部員は20人。先輩も合わせれば60人ほどの大所帯。なのにも関わらず、俺のクラスには野球部がいない…。武内も隣のクラスの1年2組だ。
早いもんで、クラスの中では既に何人かカップルが出来ているようだった。男女で一緒にお昼ご飯を食べている光景が俺には眩しく見える。いつか俺にもこんな時が来るんだろうか?なんて思いながら。
ようやく高校にも慣れ勉強に野球に、花咲かせていたころだった。
俺『いってーぇー』
野球部員『ん?大竹どうした?え…』
練習中に、ふとつまづいた際に左手を地面についた。激しい痛みがあったけど、多分捻挫かなあ?と思いながら視線を左手にやるとチームメイトが絶句していた理由がわかる。右手の2倍ほど左手首が腫れている。すぐさま病院へ。もちろん捻挫なんかではなく、左手首骨折。入学早々ギプスつけんのかあ…悪目立ちするなあ…なんて考えながら、治療を受けた。ただ、この骨折は全て悪かったことばかりではなかった。
〜6月〜
ギプスはまだ取れず生徒が使う自転車置き場で筋トレや、ストレッチの日々。
いきなりだが、俺の在籍する1年1組の可愛い女の子は軒並みみんな彼氏が出来たようで、なんだか置いてけぼりな俺。野球は毎日遅くまであるし、仕方ないかーなんて考えながら、1年2組のチームメイトの元へ忘れてしまった教科書を借りに行く。
武内『大竹どしたのー?』
俺『古文の教科書貸してー、忘れたー』
武内『ジュース1本でいいよ!』
俺『えー、高けーよ。とりあえず借りるわー!』
武内『りょうかーい!』
こんないつも通りのやり取りを、いつも通り行って教科書を借りる。そういえば、このクラス野球部以外顔知らねーなー、とふとクラスを見渡した時、見つけたんだ。彼女を。
多分一目惚れだった、教室の一番後ろの一番窓際。今までなんで気がつかなかったんだろうと思いながら、彼女から目が離れない。
武内『大竹なにしてんの?時間やばくね?』
俺『あー、マジだ!ありがとねー!』
名前だけでも見て帰ろうと彼女の方へ視線を向けると、一瞬目が合ったように思えた。ふわっとした髪型に、ぱっちり大きな二重まぶた。ほんわかした雰囲気を醸し出す彼女。目が合ったかもしれないという事実に恥ずかしくなり、すぐさま教室へ戻った。なんていう名前の子なんだろうと思いながら、退屈な古文の授業の中、夢へふけっていった。
キーンコーンカーンコーン
ふぁー、よく寝たなあ…。借りた教科書はよだれまみれになっていたが、そんなことは気にせず武内に教科書を返す。もちろんそんなのは口実で、あの子の名前を知りたくて…
(名前なんていうんだろ?んーと…たにさかさん?)
武内『おー、返しに来たか』
俺『あー、ありがとな!なあ、あの子なんて名前?たにさかさんって読むの?なのになんであんな席後ろなの?』
武内『谷坂さん?あー、やさかさんって読むんだよ』
俺の学校では、席替えがあるまでは出席番号順で席が並ぶ。なんでた行の名字なのに席が後ろなのか?謎はすぐに解決した。
武内『いきなりどうした?笑 普段野球部以外に関心示さないのに、珍しいなー』
俺『いや、別になんとなく』
武内『気になってんのか?笑』
俺『いや、そんなんじゃねーよ。教科書ありがとなー!』
武内『なんかあったらいつでもどうぞ!』
1年2組を出て、席に戻りお昼ご飯に手を伸ばす。いつもとは違う心境のお昼ご飯。
アホみたいに奥手な俺は話しかけることも、アドレスを聞くことも半ば諦めながら昼ごはんを完食した。
〜放課後〜
??『なんでだよー』
??『いや知らねーって』
??『大竹、どう思う?』
俺『いや、どーでもいい。勉強しろよ、マジで笑』
放課後、いつもならグラウンドで顔を合わせる20人が今日は教室で顔を合わせている。理由は中間テストの勉強会だ。グラウンドで顔を合わせるこいつらと教室で顔合わせるのは少し気恥ずかしい感じもした。
室井『大竹、ここ教えて』
俺『あー、ここはこの式を使って…』
室井は武内と同じ1年2組のチームメイト。真面目で勉強もできる、すげーいいやつだ。
室井『お前今日、谷坂さんのこと気にしてたって?笑 武内から聞いたぞ笑』
俺『いや、そんなんじゃねーって。ただ読み方が気になっただけだから。』
室井『そうなんかー、教えてくれた代わりになんかお手伝いできたらーと思ったけど』
俺『…お前、谷坂さんのアドレス知ってたりすんの?』
室井『知ってるよ!気になるのね?笑』
俺『ここだけの話な!気になる…アドレス教えて欲しいです!!!』
室井『わかったわかった笑 けど本人の許可取らないといけないから、聞いてみるわ!』
その日、その後のことはよく覚えてない… とりあえず谷坂さんからアドレス教えてもいいよ!って言われるかどうか。それ以外には頭に何も入ってこなかったんだと思う。
こんなにも彼女を気にしてはいるものの、心の奥では少し違う感情もあった。
今まで彼女はいたし、それなりに色んな経験もして来た。けれど、今までは野球と友達よりも優先することなんてなくて、今回もきっとそうなんだろうと、この時は思っていた。
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