第2話

「おぅ、勝利カツトシ。帰りに遊びに行こうぜ!

 お前の大好きな久美ちゃんも来るからよ」


「あ? ああ、面倒くせーなって、あの高槻タカツキがよくOKしたな?」


「まあな、感謝しろよ! その代わり、お供に比呂ぴーヒロピーも付いてくるのが確定だ。高嶺の花単独とか、そういう上手い話はないわな」


「使えねえな、隆文タカフミ。比呂ぴー性格に関して申し分ないから、特に文句はねえけどよ」


 無事地元からちょいと離れた高校に入学出来たが、家が遠いためにモテそうな運動部活に所属することを諦めた俺は帰宅部だ。大体、通うだけでも結構な早起きをせねばならない環境にあり、運動部になんぞ加入したら朝何時に起きねばならないのかと恐怖する。


「山田君、一緒に帰ろうね」


「ああ、比呂ぴーも一緒に遊びに行くんだってな」


 噂の比呂ぴーこと、三谷ミタニ 比呂ヒロは言ってみれば腐れ縁で幼馴染というには少し足りない。中学一年からたまたま同じクラスに存在したという程度の女の子。彼女はその性格とうか人格については百点満点である。容姿に関しては触れないでおくことが彼女のためだろう。

 それで家が近いこともあり、登下校でよく会う。彼女も俺と同様に帰宅部だった。


「比呂~。あっ、山田君、今日はよろしくね」


「あ、あ、ああ」


 それでこの子が高槻タカツキ 久美クミ、なんというか俺の憧れている女の子。だが、まあ、まともに口もきけない状態だったりする。

 高校の入学に合わせて都会から越してきたのだそうだ。だからだろうか、同級生というか、この辺の女の子に比べると垢抜けた感じがする。

 恐らく俺も彼女のそういったところに憧れたのかもしれない。


「山田君はまた古臭いの歌うんでしょ?」


「なっ、なんで比呂ぴーがそれを? 隆文だな。てめえ、ふざけんのは貸した金返してからにしろよ!」


「今日はおまえの分、俺が払うからそれでチャラにしようぜ」


「ああ、まあ、良いだろう」


 隆文はアレだ、高校に入学してできた悪友というか、恥ずかしながら親友と呼べる奴なのだろう。クリヤ 隆文タカフミ、運動音痴なこともあって文科系の部活に籍だけ置いているが、実は部費獲得のための水増し幽霊部員だそうだ。


 俺、山田ヤマダ 勝利カツトシと隆文に比呂ぴーと高槻という珍しい組み合わせは、放課後に隣の駅近隣にあるボーリング場へと遊びへ向かうことに決めた。



「おっせーな、電車」


「しょうがないよ、こんな田舎だし、一時間に三本もあるだけマシだよ。ひどい地域だと、一時間に一本あるか無いかなんだってよ?」


 一応、架線も掛かっていてディーゼル機関車でないだけマシというものだろう。それでもローカル線に毛の生えた程度で大して変わらないような気もするけど。

 そんな電車を待つ俺と隆文は缶コーヒーを片手に、比呂ぴーは駅の自販機でアイスを、高槻は何やら本を読んでいる。

 漸く、待っていた電車が到着すると早速乗り込む。急いで乗り込まずとも座席は空いている。この時間帯は勤めに出ている人にとってはまだ勤務時間中なのだ。

 乗り合わせる者たちは、同じ学校に通う生徒が大半を占めた。それでも車両の座席が埋まるということはない。


 一駅とはいえ、田舎の一駅という区間は長いもので、短くとも平均で五分は掛かるものだ。学校のある駅からボーリング場のある隣の駅までも、良くて五分程度の時間は掛かるだろうか。


 電車に乗り込み、座席を確保したのち扉が閉まる。毎日の経験することなので、俺は時に気にもとめず寝たふりをするのだった。



「なっ!」


「なんだこれ?」


「窓の外が……」


 何か異変があったらしいと、慌てて目を開けた俺もそれを目撃する。

 隆文たちが絶句しているのも当然か、俺も言葉を失うしかなかい。窓の外は田舎特有の田園風景ではなく、薄気味の悪い色とりどりの何かが混ざり合っているかのような奇妙なものを映し出していたからだ。

 また俺たちと同じ車両に乗り込んでいた乗客たちも同様だった。名も知らぬ同じ学校の生徒や幼い子供を連れた母親、老夫婦など様々な者たちも窓の外の景色に釘付けになっている。


「何が……おきて……いる?」


「わかるかよ!」


「何、なんなの?」


 不安をそのままぶちまけたような言葉が重なる。

 俺もそんなことを無意識に口走ったかもしれないが、状況に変化は一切見られない。

 

 驚愕に支配されていた乗客たちの中から騒ぎ始める者が出始めた頃、突然窓の外の景色に変化が訪れる。

 薄暗い闇の中に若干なれど青白い光が見える。振り返り窓に顔を近づけ、目を凝らすと、何やら人影らしきものが浮かび上がってきた。


「人だ! 誰かいるぞ」


「何あの格好? コスプレ?」


「あいつら、何か知ってるかも?」


「まずは固まろうぜ。何かヤバい!」


 危機的感覚は皆似たようなものなのだろう。俺たちも座席から立ち上がると、子供連れの母親の元へと歩き出す。


「大丈夫だよ、元気出して」


「ありがとう、お嬢さん」


 高槻と比呂ぴーが子供二人の頭を撫でるのを見た母親が礼を言う中、続々と乗客が集まり始める。全員で十二名といったところか。


――ゴンゴンゴンゴン

――コンコンコンコン

 

 暗い色の布を頭から被った大人、性別は男だろうか。そいつらが電車の車両本体や窓ガラスを木の棒らしき何かで叩き始めた音が引っ切り無しに聞こえてくる。

 まるでこちらの不安を煽るかのような行為だ。


「とりあえず窓からは離れよう」


 子供が泣き叫び始めるが、この状況では誰も責められるものでもない。実際に俺だって場所を弁えず頭を抱えて縮こまりたいくらいだし。

 緊張する車内では母親や高槻たちが必死に子供を宥めようとしていた。


「このままでは埒が明きませんね。私が交渉でもしてみます」


「あなた、無理をしないでください」


「爺さん、俺とこいつも付き合うよ。壁くらいにはなる」


 老夫婦の夫が交渉へ立つことを立候補する中で、俺と隆文はお互いに頷きあい、爺さんを援護することに決めた。


「山田君たちも気を付けてね」


「お前ら一年だろ、俺も一緒に連れていけ。2Eの秋山、秋山アキヤマ 将太ショウタだ」


 校内でチラと見たことのあるような、無いような先輩も同行してくれることになった。

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