週末くらぶっ!

エパンテリアス

プロローグ

 土曜日の朝。みなさんはどうお過ごしだろうか。

 『俺は神かもしれない』と朝から元気いっぱい覚醒している人もいれば、平日の疲れをすべて回復しようと遅くまで寝ている人もいるだろう。

 そんな土曜日をみんな過ごしている中、俺はちょっと違った過ごし方をしている。

 「おはよーございますっ! 春輝さん!」

 「おっはー、春輝ぃ」

 「ぐっどもーにんぐ、はるはるー」

 「はい、おはよう」

 可愛らしい女子小学生三人が俺の家の前まで来ている。

 その三人を連れて、俺は”いつもの場所”に向かう。



 

 俺の名前は佐藤春輝。この春で高校一年生になったごくごく普通の男子高校生である。

 特にこれと言って冴えたところはない。何かの拍子に女子にモテるということもなく、地味なそこら辺にいる男子学生。

 そんな俺は一応、剣道で中学時代に全国総体に出場したという実績がある。

 当然、たいていの人がそこまでやれるのであれば高校もするだろうと思うに違いない。

 でも俺はその周りの予想を覆して帰宅部になった。

 高校入学して早々に繰り出される先輩たちの脅迫に近い勧誘を切り抜けて、顧問が周りの目を気にせずにみんなの前で呼び出されて勧誘されることも振り払って俺は帰宅部の道を選んだ。

 それはなぜか。

 その理由はただ一つ。週末という最高の時間を自分のしたいことに費やしたいという理由ただ一つ。

 高校の運動部になどはいれば、間違いなく週末は練習と試合で休みなどなくなる。そんなことが俺の今の高校ライフにあってはならないのだ!

 そんなことを強く心に決め、俺は親に相談したところ……。

 「勉強ちゃんとやるなら別にそれでもいいけど?」

 あっさり許可が下りた。

 そして俺は晴れて帰宅部になってもいいわけなのだが……。

 「春輝や。少しいいかい?」

 親に帰宅部でいいかの話をしているときに同じ部屋にいたおじいちゃんが俺に声をかけてきた。

 「あ……おじいちゃん……」

 俺がなぜ中学時代かなりのところまで剣道で勝ち進むことが出来たのか。

 それは祖父のお陰であるのだ。

 もともと自分の家では祖父が道場を持っており、小さいころから厳しく指導されていたかいもあってかそこまで進むことが出来た。

 祖父としてはきっと俺に剣道を続けてもらいたいと思っているのだろう。

 しかし、今の俺ではずっと三年間真面目にやっていける自信がない。それを祖父は分かってくれるだろうか__。

 「春輝はこれから土日は暇になるのかい?」

 そんな俺の不安とは裏腹になぜかまったく予期していない質問が飛んできた。

 「あ、うん。そうなるけど……」

 「そうか。なら、ちょっと申し訳ないのだが……少し頼みたいことがあるのだけどいいかな?」

 「何?」

 「実はな、今年も結構な人数道場に入るのを希望してくれている生徒さんがいるのだが、ちょっと複雑な事情があってだな……。三人ほどちょっと春輝に面倒を見てもらいたい子がいるのだが」

 「ん? 剣道ならみんな一緒に出来る範囲でやらせればいいんじゃないの?」

 「いや、剣道をやらせるのならそれでもいいのだがな……」

 「????」

 祖父の言うことが全く分からなかった。

 「と、とにかくちょっと会って見て欲しい。それでだめだったら断るから。詳しい話は相手がいて話したほうが分かりやすいだろう」

 「う、うん。分かった。おじいちゃんがそこまで言うのなら俺は別にそれは全然構わないよ」

 「すまぬな。じゃあ今週の土曜日の午前中は予定を空けておいてくれ。その時に顔合わせといこう」

 そしてその週の土曜日の朝。

 俺は祖父について行き、家から徒歩数分のところにある祖父の持つ道場まで足を運んだ。

 祖父の持つ佐藤道場はこの周辺ではぶっちぎりで強豪クラブで、普段は穏やかな祖父も、誰に対しても教え子であれば厳しい。

 剣道をやったことがある人なら知っているかもしれないが、ただ強いだけで武道としての礼儀をわきまえていないクラブも多い。しかし、祖父はそれを一切許さず、強く清く正しくをモットーに強い生徒を育てるため、評判もいい。

 そのため、毎年たくさんの生徒さんが入ってくるのだが……。

 祖父のあんなに困った顔は初めて見たのだ。

 祖父の性格であれば問題児であれば容赦なく辞めさせるだろうし、練習について行けないとなると自然と辞めていくはず。

 あの祖父を困らせる生徒。一体それは何者なのだろうか。

 それを祖父も俺に押し付けようとしているのだろうか? そんなことをわざわざ祖父がするとは思えない。

 ますます考えれば考えるほど分からなくなっていく。どんな相手なのだろうか。

 道場に入るとすでに何人もの生徒さんが着替えて素振りをしたり、体操をしたりして気合十分に練習に備えている。

 元気のいい挨拶を受けながら、祖父は道場の一角の隅に向かう。そして、祖父は目の前の人物の前でこう言った。

 「春輝にこの子たちの面倒を見て欲しいんだ」

 「え???」

 俺の目の前には可愛らしい女子小学生が三人、ちょこんと正座をしているのだ。

 「よ、よろしくお願いしますっ!」

 三人のうちの一人が緊張で声をこわばらせながら、ぺこりと頭を下げて挨拶をした。

 「こ、この三人は一体?」

 「春輝も聞いたことがあるかもしれないが、実はこの三人は学校で最近休みの日でも学校の施設を借りて遊んだり、勉強したりするようなものに週末参加しているんだ」

 「ああ、聞いたことあるね。地域の自治会のメンバーが主体になって最近忙しくて休みのない親が安心して働けるように子供に充実した時間が過ごせるようにする企画ですよね。それがどうかしたの?」

 「実は、小学校の体育館や校舎が改装工事に当たって子供たちを一時的に預かれないとなってしまってな。各地域分散して預かれないか聞いて回っているのが、うちにも来てこの子三人の面倒を見てあげられないか、とのことだ」

 「なるほど……」

 ああいった企画は学校や公民館といった子供たちの安全がちゃんと確認できる場所が確保できない限りは容易にどこでも出来ないと聞いたことがある。

 「わしが見ると言っても、生徒への指導もあるしどうも今の若い子のことはよく分からん。少しの期間だけお前が見てはくれないかの?」

 「そうは言ってもなぁ……」

 祖父がついて行けないと言っているが、正直なところ俺でもついて行ける気がしない。

 それに祖父がとるスキンシップと俺のとるスキンシップ。犯罪集がよりするのは間違いなく後者。

 それに俺の事が怖いだろうに。

 俺がそう思いながら、三人を見ると俺にどうかお願いしますといった表情で目を潤ませながら上目遣いでこちらを見ていた。

 それを見て、俺はこう言った。

 「おっけい。任せといて」

 あっさりと俺はこの可愛らしいJS三人の面倒を見ることを許諾していた。

 

 

 

 

 

 

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