第50話 Jerry Hooker ジェリー・フッカー(1)
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俺は超能力を色々使えるけれど、
メチャすごい天才だけど、万能でも無敵でもない。
万能ではないけれど、力があるから、責任はある。
普通の人間は生きる理由なんて一々考えないし、生きてたらそれ自体が理由になってずっと生きていくもんだけど、俺はそうもいかないから今日も何か理由を探してる。
俺は俺の倫理観にしたがって、俺の能力を役立てなければならない。それが俺の責任だ。
この世には誰かが何とかしなきゃいけないことがたくさんあって、俺にはそれが何とかできてしまう。
そのためだけに生きることはできないけど、できる範囲で何とかしようとすることにはきっと意味がある。
みんな人を助けるとか誰かのためとか世の中をよくしたいとかすごく簡単に言うけれど、それにどれだけの責任がともなうのかマジで考えてるやつはほとんどいない気がする。
良かれと思ってしたことが誰かの迷惑になったり、失敗したと思ったことがあとで成功のきっかけになったり、無限に分岐していく未来のために最善手を打ち続けることはできるだろうか?
そしてその可能性のすべてに責任を取ることはできるだろうか?
無理に決まっている。
コンビニの店長ですら、雇ったバイトに対する責任から逃れることはできない。
すべての責任を取れるなんて考えは傲慢だし不可能だけれど、責任がそこにあることだけは確かだ。
他人と接したら、その分だけ責任が積み重なっていく。
それを切り捨てることは俺にはできない。
その責任は、俺が望んで背負っていくものだ。
ちょっと関係ないようで関係のある話をしようか。
人は奴隷が好きだ。
もっと言うと、屈服させて一方的に搾取することが幸せだと感じる人間は意外なほど多い。
ジャパニーズ異世界転生小説でも、すーぐ主人公が奴隷の女の子に優しくしては「ご主人様(はーと)」なんて呼ばれる展開を乱発されているし、それが縮小再生産だとわかっていながら作家も読者も編集者もやめようとしない。
学校では常にヤンキーや教師とかの、狭い世界の中でしか通用しない謎の独自ルールに従わされ、会社に就職したら毎日サービス残業。
かと思えば、コンビニで時給750円で働いてる外国人留学生に高級ホテルのスタッフ並みのサービスを求める。
これっていつか誰かが他の誰かの奴隷だった屈辱が抜けきらなくて、自分より弱い立場の人間ができた時にまた奴隷の立場を押し付けてるだけなんだよなーって思う。
誰かを屈服させたときにしか自分が自分でいられる実感が持てない人間がこんなに多いのマジかよ、って感じだけど、実際そうなんだから仕方ない。
それを奴隷と呼ぶかどうかは難しいラインだけど、基本的人権ってやつが机上のものになって誰かが誰かを無償であごで使うのが当たり前になったら、そこにあるのは奴隷制度だ。
命が軽くてしょっちゅう小競り合いから殺し合いがあるし、奴隷制度が違法ではなくバリバリの現役だけれど、そこに疑問を抱く視点を忘れてしまったら、俺が向こうの世界で生きてきた時間の全てが無駄になる。
誰も殺さないことは正直難しいけれど、殺しを楽しむようにはなりたくない。
それがどうしようもなく社会に組み込まれたものであっても、自分ひとりだけでも手を引きたいと思う。
俺は個人としては天才だけど、社会をどうにかするほどの力はないのだ。これは本当にもう、どうしようもない。
奴隷制度も同じで、屈服させることに喜びを感じたくはない。
それが何であれ、貪ることは自分から幸せを遠のける行為だ。
元の世界では、子供が大学に行って大人になるまで、大体三千万円のお金がかかると聞いたことがある。
単純に考えれば、人の命ひとつに三千万円の値段がつくわけだ。
それだけではなく、人が生まれてから老いて死ぬまでのために、どれだけの他の命が消費され、どれほどたくさんの人の慈しみがかけられてきたのか。
人が口にするその命だって同じことだ。
生きていくだけで、すべての命には責任がある。
そして、人が人の上に立つということにも、もちろん責任が発生するわけだ。
奴隷というのもただ他人を自分より下の立場に置いて終わりというわけじゃあない。
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