第43話 Fuck 荒々しく攻め立てる(12)
早く、早く――
俺の思いがようやっと届いたのか、転がりまくった先で泡が突き当たりの壁にぶつかった。
突き当たりでは床が格子状になっており、マグマが下の階に流れ込んでいく。
すると、マグマの中から見上げるほど大きな扉が現れた。
マグマの波が引いてようやく顔が見えたフィルニールは、酷く青ざめていた。
すがるように杖を握りしめ、精霊光もかなり弱まっている。ここまで来るために力を消耗しすぎたのだ。
悪いことをしたとは思うが、これも必要だったんだ。許せよ。
ダンジョンの恐ろしさを知るクタラグが、そして意外と迷信深かったらしいミーシャとシンシャが触れるのも嫌そうに目の前の扉を見た(ボルゾイ姉妹は股の間に尻尾を丸めていた)。
扉には物々しい
曰く――「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」
七つの大罪を犯したせいで、ついに地獄まで来てしまったか。
人の作った社会的な倫理の基準で自分たちの行動を規定し、ついには裁かれる。
馬鹿々々しいことだが、これも人間をやっていく上では避けられない手続きなのだと思う。
諦めとそれを踏破しようとする不敵な笑みが自分の口端に浮かび上がるのがわかった=鏡を見るまでもない。
「笑わせんな。ここが俺たちの唯一の希望だぜ。こちとら勝つために来てんだよ」
ただひとり、レイラだけが恐れも何も持たずにここに立っていた。
レイラの中の過剰な義務感=ただ
扉を蹴りつけて、無理を通すように部屋に押し入る。
ダンジョン側からしてみれば、冒険者はいつだって侵略者だ。ならば、傲慢になって何が悪い?
同時に、ウンディーネによる泡のバリアがその役目を終えて、パチンとはじけて消えた。
残っていたマグマの熱気がむっと押し寄せたが、部屋の中の光景は逆に寒気がするようなものだった。
ダンジョンに住まう魔物たち。
ダンジョンを踏破することで得られる財宝の山。
ダンジョンをダンジョンたらしめる、悪意に満ちたトラップの数々。
だだっ広くて四角い部屋に、それらがびっしりと詰まっている。
死と欲望が隣り合わせになった、ダンジョンの本質。
冒険という綺麗ごとの薄皮を一枚剥いだ先にある、あまりにも生々しいものがそこにあった。
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モ ン ス タ ー ハ ウ ス だ !
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ダンジョンを攻略する上で最も注意し、何を犠牲にしても避けなければいけない、しかしとてつもない価値のアイテムの魅力が幾人もの冒険者を誘い込んだ、最悪の食虫植物じみた存在。
ダンジョンを攻略する理由と、ダンジョンを攻略する上での恐ろしさが同居している。
天井にまで蜘蛛やコウモリの形をしたおぞましい魔物たちがぶら下がっている。
部屋中のモンスターたちが一斉にこちらを見た。
ぞろり、と殺意がうごめく音。
獣や虫を悪意で歪めたような魔物たち。
外で生まれた魔物と違い、ダンジョン産の彼らは積極的に人間とだけ敵対する性質を持っている。
だからこんなに密集していても共食いが起こらない。
一部の例外を除いて。
魔物たちが俺たちを襲いに来る。
イースメラルダスが追いついて、窮屈そうに扉に身体をねじ込んだ。
挟まれた。
イースメラルダスの黄色い目が
ピンチに次ぐピンチ。
けれど、俺たちは望んでここに来たのだ。
「クタラグ!」
「応!」
クタラグは既に目星をつけていたようだ。
わずかの迷いもなく、ナイフを
ナイフはイースメラルダスでも魔物たちでもなく、それらをすり抜けて正確に、奥にある宝箱の一つに突き立った。
「せめて当てろ!」
顔色の悪いフィルニールが文句を言うが、これでいいんだ。
ナイフの刺さった宝箱が、ブルブルと震えだした。
勢いよくふたが開く。
箱の中身には針のように細い牙と、粘性の汁をまとった触手が詰まっていた。
ミミック――宝箱に擬態する怪物だ。
こいつの不思議なところは、魔物とトラップの中間の生き物ということだ。
ダンジョン内の魔物とは微妙に異なる生態を持つ。
つまりどういうことかというと、ミミックは共食いをするのだ。
ミミックが側にいたゴブリンを触手で高く持ち上げると、振り下ろして全身の骨を砕いた。
グチャグチャになった肉塊が箱の中に飲み込まれていった。
その勢いは止まることなく、触手が竜巻みたいに周りの魔物を巻き込んでは喰らっていった。
イースメラルダスも面食らっている。
好機!
俺たちはモンスターハウスの魔物たちの群れに斬り込んでいった。
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