第42話 Fuck 荒々しく攻め立てる(11)
『これはやりたくなかったけど、仕方ない』
『おい、本気でやるのか!?』
と俺のプランにビビったクタラグが言う。
『フィルニール、ウンディーネを呼び出して、俺たち全員を
ミーシャとシンシャがそれに応じる。
『うちの』
『口だけ成金貴族に』
『できるかしら?』
『できなきゃ死ぬんだってば(俺以外)』
フィルニールの細いあごを伝って、汗が一滴落ちた。
ずっと走っているからでも、溶岩まみれのダンジョンがクソ暑いからでもない。
純粋なプレッシャーによるものだ。
自分の責任で、親しい仲間が死ぬかもしれないということが恐ろしいのだ。
群れとして行動することはあるが、その過程で仲間や家族が死んで、悲しむことがあったとしても、そこで感情の動きは止まる。
責任は人間にしかない、社会的な心のはたらきだ。
「私が失敗したら、みんな死ぬ」
声に出して、言った。
「別に、パーティ組んで冒険者やってたら、そんな珍しいことでもないだろ」
「違うんだ。本当は蛮竜から逃げ切れたかもしれなかった。あの時、戦う判断を下したのは、私が金に目がくらんだからだった。私はどうしても蛮竜を殺して、金が欲しかった」
正確には、クタラグの都合と誘導があった。しかし、フィルニールはそれを知らない。
知った上でも、同じ判断を下しただろう。そのことが彼の頭から離れない。
責任/コインへの執着と渇望/後悔。
どれも人間にしかないものだ。
高次元の社会性が作り出した人間にしかない機能、人間にしかない感情がグルグル回る。絵の具みたいに混ざりあう。
「納得してやったんなら、お前らみんなの責任だろ」
「それでも、私には責任がある。だから、やる。できる」
「俺の立てた計画だって絶対正しいわけじゃあない。成功しても死ぬかもな。そんな不確定なことに命を懸けるのが、責任だって思ってるのか?」
「お前はその責任から逃げるつもりはないのだろう。曖昧なもので、触れられないし目にも見えないのだろう。しかし、そこにある。ならば、私も逃げない」
外の世界に旅立つエルフは、隠れ里にある千年以上生きた大樹の枝を与えられ、自ら削って自分だけのための杖を作るという。
そうして作られた杖は、他の既製品ではありえない精霊魔法への適性を発揮する。
フィルニールの意思がより回転数を上げ、それに呼応して彼の手の中で杖の先端が精霊光を強く発した。
クタラグがうなづいた。パーティーメンバーにだけ呼応する何か。
壁の突き出た岩のひとつを強く押し込むと、分岐した道の片方からマグマが猛烈な勢いで噴き出した。
水鉄砲どころの話ではなく、むしろ鉄砲水だ。
俺たちはマグマが流れてこない方の道に走り込む。
通路はゆるく傾斜しており、あふれ出した大量のマグマ→イースメラルダス→俺たちという感じで、ものすごいデッドヒートが行われているわけだ。
「踊れ踊れよウンディーネ、我らと共に、
フィルニールが詠唱を終えた瞬間、マグマが俺たちに追いついた。
けれど、ちっとも熱くない。むしろ、ぬるめのお風呂につかってるみたいで気持ちがいいくらいだ。
フィルニールが召喚した水の妖精・ウンディーネが、俺たち全員に泡のバリアを張っているのだった。
俺のサイコキネシスの派生で障壁を張ることは可能だが、マグマの中を長時間となると俺ひとり分しかもたない。
このマグマの洪水に飲まれた状態では、目的地までに生き残れるのは俺と人間離れした生命力のイースメラルダス、あと運が良ければレイラもギリギリってところだろう。
イースメラルダスはその
大事なのは、マグマが量とその勢いで俺たちを道なりに押し流すことだ。
濁流に揉まれて視界がメチャクチャに回転する。
プールの上をビニールでできたボールの中で走り回るアトラクションってあるよな? あれのマジで酷いバージョン。
まあ、普通の人はマグマの濁流の中に放り込まれて生きてることなんてまずないだろうから、想像できないだろうけど。
巨人族にバリアの上からつかまれて振り回された時もこんな感じだった。一言で言うと、最悪。
ゲロ吐きそうだけど、この密閉空間で吐いた上にシェイクされたら新たな地獄絵図が生まれそうだから、死ぬ気で我慢する。
イースメラルダスも死なないにしたって、さすがに視界はまともに取れないので、攻撃はほとんど飛んでこない。
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