第十一話 今宵の月のように

1.喪失と転換

 俺の腕の中で、ユヲンは動かなくなった。

 どうやったかは知らねえが、ユヲンは戦場で無双をみせていたクィモを見事に止めてみせたのだ――その命を賭けて。

 俺はユヲンを傍らに寝かせ、腕を組ませ、掌ですっと目を閉じさせた。ユヲンのためにも俺は人形クィモを倒し剣士バッソを倒さなければならない。


 右腕を失ったクィモは自動人形オートマタ特有の機能停止ダウン状態に陥り、全く動かなくなっていた。

「マスター、彼女を破壊します」

 キィハが言った。

 動いていないクィモはただの綺麗な人形のようで、俺はキィハの許可することを少し躊躇ためらった。

 キィハがクィモの首を掴み、吊り上げる。

 キィハなりの意趣返しなのだろう。そのままクィモに手刀を浴びせた。

 手刀の衝撃で地面に叩きつけられるクィモ。

 あと何度か繰り返せば破壊は終了することだろう。

 その時、活動停止ダウンしていたはずのクィモが動いた。

 それは片手で逆立ちをするような動きだった。

 左手を地面について身体を支え、そこからキィハに向けて二発の蹴りが放たれた。

 不意を突かれた格好になり、咄嗟とっさに腕で受けるもバランスを崩すキィハ。姿勢を立て直しながらクィモから距離を取る。

 だがクィモがそれを許さない。距離を詰め、再びキィハの前で地面に手をついて蹴りを繰り出す。その動きはまるで踊っているようにも見える。

「カポエイラかっ!」

 俺は叫んだ。

 ――カポエイラ。

 その格闘技は南方で生まれたという。アクロバティックな動きで華麗な足技を繰り出し、また、その踊るような動きはフェイントとして非常に有効であり、カポエイラの達人の動きは玄人でも見切れないという。

 聞いたことはあったが……こうして見るのは初めてだ。

 クィモは右腕を失ったことで一旦は機能停止ダウンしたものの、現状の肉体で扱える格闘術を短時間で導きだし、戦線に復帰したということか。

 先程まで苦悩と困惑を露わにしていたクィモの表情が、元の無表情に戻っている。

 キィハへの許可に少し躊躇ったことを俺は呪った。

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