4.緑青に驚く遅刻者
見たことのないオートマタの姿がそこにはあった。
ジャム・ストライドが食堂から飛び出していったのを追っていく彼所有のオートマタ、キィハの足の速さに大きく遅れを取った結果、街中を探し歩くことになり、僕はようやくここに辿り着いた。
街の中心部にある石畳の広場。どういうわけか破壊されている守護の女神像を囲むように、ジャム・ストライド、キィハ、バッソ氏、そして初見のオートマタが対峙している。
状況を把握できないでいる僕の心を奪ったのは、件のオートマタだった。僕はそのオートマタの美しさに目を奪われた。
キィハの漆黒の髪も美しいと思ったが、緑青に染まった彼女の髪は少し内側に巻かれていて、より女性らしさを感じさせる。
肌の色はより白く、澄んでいて、白と表現することが間違っているのでは無いかと思えるほどの尊さを持ち合わせている。
横顔がまた美しい。黄金比と呼んで差し支えないほど各パーツがその美しさを支えるために完璧に配置されている。
琥珀色の目は麗しく、吸い込まれそうなほどの煌めきを伴ってそこにある。いや、もうすでに吸い込まれていると錯覚さえしてしまうほどだ。
目も唇もキィハとの違いははっきりとある。同じ人形であるにもかかわらず、ほんの少しの違いでこんなにも印象が違うものなのか。
キィハはある種の無垢さを感じさせるのに対し、緑青の彼女はそれよりほんの少しだけ大人びた印象を与えてくれる。だが少女的なあどけなさも残っていて、そのバランスが絶妙で何とも言えず素晴らしい。
そして、その美しさと対比するように赤黒く染まった右腕について語らなければならない。
それは不快感さえ感じさせるほどに禍々しく、畏怖さえ覚えるほどに直視しがたい。ただそのことがギャップとなり、彼女の美しさをより一層引き立てているのだ。
直立する少女の姿をキィハの腕を纏う炎の揺らめきが淡く照らす。
そのまま切り取って絵にしたいような光景。
だがその光景は瞬時にして崩れ去る。
緑青の髪が揺れた。
八〇〇カルダを一跨ぎする驚異の跳躍。
躍動する右拳の標的は――ジャム・ストライド。
二人の間にキィハが割り込む。
堅い物がぶつかる鈍い音が辺りに響き、二体の人形が交錯する。
――百年もの大昔、少女を模した人形を戦わせ競い合わせる娯楽が流行ったという。もし僕がその時代の住人だったのなら、彼女たちの大ファンになっていたに違いない。
その勇姿に心が躍る。
もっと観たい。
もっと魅せてくれ。
美しい少女達が互いに拳を交えるその姿を。
「僕はもう少しここで見させてもらうことにするよ」
バッソ氏の声が響いた。
そして我に返る。
これは――戦争だ。
ようやく事態を掴まなければならないことを思い出し、臆する気持ちに蓋をして、僕は戦場に少しずつ近づくことにした。
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