3.余裕を愉しむ傍観者

 炎焔ほのおを宿すキィハ。

 深紅を宿すクィモ。

 二体の少女型自動人形オートマタが戦場をいろどる。

 先に動いたのはクィモだった。

 緑青エメラルドグリーンの長い髪が夜空に舞う。

 石畳を蹴り一気に距離を詰めてくる。

 攻撃対象は――俺。

 赤に染まる右拳が彼女の肩口から鞭のようにしなって迫り、俺の胴体ボディを穿ちにかかる。

 早い。

 さらにその拳は俺から見えない角度で繰り出されている。

 避けられないと悟った俺は、咄嗟に雷撃掌ライジングパームを握った。

 ――拳を拳で迎え撃つ。

 俺の右腕は明らかに砕け散るだろうが、左で引金トリガーさえ引けるのであれば魔銃は使える。万に一つでも相手の右腕を破壊できれば戦況は変わる。

 ゼロコンマ何秒かの間に、俺は極めて勝ち目の薄い賭けに右腕を張ることになった。

 我ながら愚かだ。

 だがその賭けは成立しなかった。

 駆けつけたキィハ両腕を交差させ、クィモの拳を防いだからだ。

 拳と腕がぶつかり合い、乾いた粘土とは思えない鈍い音を立てる。

 キィハはクィモの勢いに押されながらもつま先を立てて場に留まる。

ご主人様マスター、彼女のパンチは絶対に避けてください。あの腕はご主人様マスターの血を奪います」

 言われなくてもわかってるぜ相棒バディ

 俺は雷撃掌ライジングパームを一旦切り、素早く後退した。

 嫌な汗が背中を伝う。

「僕はもう少しここで見させてもらうことにするよ」

 遠くから剣士の声がした。

 剣士は構えていたはずの両手剣バスタード・ソードを鞘に収めている。

「英雄ブレドの右腕だった自動人形オートマタが、そんな不良品ジャンク相手に引けをとるわけがありませんから」

 自動人形オートマタ第一世代と第二世代の性能差。

 話には聞いたことがあるが、何処までの差があるのかは正直解らない。

 それでも俺とキィハは拳を握る。

 第二世代クィモをぶっ倒し、傍観者バッソを再び戦場に引きずり出さなければならない。

 俺はクィモを見た。

 その顔は喜怒哀楽を表すこと無くただただ怜悧で、その琥珀色アンバーの瞳は戦意さえ感じさせないほどに美しく輝いていた。

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