7.爪や嘴を使う
料理人が爪を伸ばしていたこと。
牧場主が鶏の嘴で怪我をしたこと。
爪や嘴で肉体を傷つけることができるということはすでに証明されている。それならば切断を試みることが出来るのではないかと僕は考えた。
ただ、これに関しても骨の問題があった。爪で骨が切断できるのであれば、肉屋が牛や豚を諦めることはなかったはずなのだ。
きわめて低い可能性に嘆息しながら、僕は丸鶏に自分の爪を刺してみることにした。
時間は二日目の十五時頃、場所は同じ川沿い亭の厨房。糸と針鋸を試した後で行っている。
偶然ながら、爪切りをサボっていた僕の爪はまあまあ伸びていて、料理人ほどではないにせよ、ヤスリで尖らせてやればある程度の長さと鋭利さを確保できた。
その爪を丸取りの大腿部に立て、力を込める。
肉に自分の指が食い込む嫌な感触とともに、僕の爪はずぶりと丸鶏の大腿部に突き刺さった。それを一旦引き抜き、空いた穴を起点に爪を横に走らせる。これがなかなか出来なかった。爪が鶏の皮に絡んでしまい横に動いてくれないのだ。さらに鶏の脂が爪にまとわりついて切れ味を落としてしまう。僕は爪を細かく上下に動かしながら、かなりの時間をかけて鶏のモモ肉に十五センチほどの切り傷を作った。けれどその傷は表面から二センチほどで、切断するにはほど遠いものだった。だが、たったそれだけの傷をつけるだけで僕は汗だくになっていた。爪は今にも剥がれてしまいそうなほどに痛むし、指の付け根もじんじんと痛む。たったこれだけで僕は疲労困憊だった。自分の体力のなさを差し引いても、この方法で人体を切断しようと思えば、もしかしたら半日以上かかってしまうのではないだろうか。
そして骨の問題。
糸で切断した手羽元に爪を刺してみたところ、首尾良く骨にまでたどり着いたまでは良かったのだが、やはり骨は硬かった。いくら爪を擦りつけてみたところで傷をつけることさえ出来なかった。これ以上続けても爪が折れるのが関の山だと思い、僕は骨の切断を断念した。
無理だ。爪では人体を切断できない。
僕は肩で息をしながらそう結論づけた。
ちなみに丸鶏はそのまま厨房で引き取られ、翌日のスープの材料になった。
鶏とゴボウのスープはレモンが搾ってあって爽やかに仕上がっていた。その奥にゴボウの野趣が効いていて、切断方法にたどり着けないでいる僕をあざ笑うかのように、少しほろ苦かった。
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