2.針鋸で切る
次に用意したのが針鋸である。
時間はかかるが木材を切る道具として今でも実際に使用されている針鋸であれば、同じく時間をかけさえすれば人体を切断することができるのではないかと考えたのだ。
時間も場所も糸と同じ十五時頃、川沿い亭の厨房である。
検証には家具職人のオツカー氏から借りてきた針鋸を使用させてもらっている。
まずは手始めにと木の枝を切ってみたのだが、針鋸は予想していた以上に使い勝手の悪い道具だった。細い枝を切り落とすのでさえかなりの時間を要するのである。
そもそもがただの堅い毛だということなのだろう。木に食い込む刃があるわけでもなく、ただ段階的に付いているキューティクルが木を少しずつ削るという、ただそれだけの代物なのだ。もうこの地点で僕は針鋸に対して可能性を感じていなかった。
一応、僕は肉を切ってみることにした。
対象は糸の時と同じ丸鶏。実際に切ってみたところ、肉の表面がぐにぐにと動くだけで一向に切断できる気配がなかった。かなりの力を込めて二十分近く擦り続けたのだが、針鋸は鶏肉の皮を擦り切るようにちぎったのみで、肉にダメージを与えることさえできなかった。これで骨を切り落とすことは到底想像できない。そもそもが針鋸で肉を楽に切断できるのであれば肉屋も料理屋も針鋸を採用しているはずなのだ。
針鋸では肉を切ることは出来ない。
この考察は徒労に終わるだけで、今回の件に関して何の成果ももたらさず、ただ色濃い疲労だけが僕の身体に残っただけに終わった。
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