3.二本の角材でせん断する
次に考えたのが角材二本を使ったせん断である。
せん断とは対象を二つの硬質な物質で挟み込んで切断することである。身近なところではハサミが分かりやすい例だろう。刃物が切れなくなったことで今ではハサミも使えなくなったのだが、大きな角材で対象を挟み込んで強い力を加えればうまく切り落とせるのではないか、と僕は考えていた。
結論だけで言うと、僕はこの検証を実行することができなかった。
サンライズ家具でオツカー氏から角材二本を購入しようとしたのだが、用途を聞かれて素直に鶏肉をせん断するためだと答えたところ、めちゃくちゃに怒られた上に角材を譲ってもらえなかったからである。貴重な木材を無駄なことに使ってくれるなと氏は言った。僕に反論する余地は無く、針鋸のみを借りて川沿い亭に戻ってきた次第である。金属で角材を作成することも考えたが、日数的にもかなりの時間を要する上に、費用も莫大にかかってしまうため断念した。
せん断についてもニーベック医師の見解を伺っている。
医師の見解は、方法として成立しないというものだった。
せん断は、糸と同じくストレスの問題が大きい。もし二つの物質でせん断しようとすれば、物質に対して面の圧力がかかることになる。要するに押しつぶされた跡が顕著に残るというのだ。
今回、被害者の身体にそういった圧力の掛かった痕跡は一切なく、ただただ切断されていた。これはせん断によるものでは無いとの見方だった。仮に木材では無く金属で角材を作成し挟み込んだとしても結論は同じだということだった。せん断は、死体の状態との整合性がとれる方法では無いというのが医師の最終的な見解であった。
こうして三つの仮説がかなり早い段階で否定された。
この段階で僕はかなり焦っていた。
今回の事件の解決策として、切断方法を見つけられれば犯人に近づけるという僕の予測がかなり怪しくなってきたからである。
この後も、僕はまだ見えぬ犯人像がどんどんと遠ざかっていく感覚に打ちのめされながら検証考察を続けていくことになる。
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