14.キャメルバド農場 農夫の嫁 ハンナ・プランツ

名前【ハンナ・プランツ】

性別【女性】

年齢【六十四歳】

職業【兼業主婦 農夫】

外見【ふくよか 色白】


 彼らの畑は街の郊外に位置している。刃物が禁止されたことにより、結果的に肉の供給に制限ができたせいだろう。野菜の重要性は結果的に増したと言える。特に豆類は貴重なタンパク源として機能しており、訪れたキャメルバド農場でも豆類はかなり広範囲に作付けされていた。ここではプランツ氏の妻であるハンナ・プランツに聞いた内容を掲載することにする。これは主人のジャン・プランツが非常に寡黙で大した聞き込みができなかったことに起因する。


 ――あら、バークリィさん。こんにちは。良いお天気ねえ。ふふふ。あら、主人ですか? 主人なら畑に出てますわ。主人に何か御用ですの? まあ、あの事件の……まだ犯人がわからないのですね。被害に合われた方が可哀想ですわね。

 あの日の夜ですか? 確か大雨でしたわよね。主人が畑のことが心配だから様子を見に行くと言って家を出ましたわ。結構遅い時間でした。二十三時ぐらいだったかしら? 何度も止めたのですけど……あの人、どうしても気になるからって聞かなくて。でも、一時間も経たないうちにズブ濡れで戻ってきて。それも真っ青な顔してねえ。すぐに服を脱がせてお湯を沸かして身体を拭きましたわ。それなのに結局、次の日から熱出して寝込んじゃうんですから、困った旦那さんです。ですけどもうすっかり元気になって、今日も畑に出ていますわ。よっぽど野菜が好きなのね。変わらないわあの人は。

 作物の種類ですか? うちでは小麦、大根、ニンジン、ジャガイモ、トマト、玉ねぎ、ひよこ豆、空豆、レンズ豆、オクラを育てています。ありがたいことにどれも人気でよく売れていますのよ。うちの野菜達は美味しいですからね。ふふふ。茹でてから糸で切ればどの料理も昔と同じように仕上がりますわ。あ、そうだ。良かったらこれ持って行ってください。あら、いいんでのすよ。遠慮なさらないで。保安員さんも何かと大変でしょうから。新鮮な野菜でちゃんと栄養取って、これからも頑張ってくださいね。

 作物の収穫ですか? そうねえ……根野菜は昔と同じように引き抜いて収穫しています。トマトやオクラ、ジャガイモなんかの収穫には石を使っています。今はもうハサミもナイフもありませんから。手袋の指の先に小石を縫い付けたものを用意しておいて、それで蔦や枝を擦るようにして切るんです。慣れると簡単ですのよ。小麦は石斧で刈り取っていきますわ。私も少しお手伝いしますけど、ほとんど主人が一人で収穫作業をしますわね。収穫はルゼナルキル様にお祈りしてから行います。雨と水の神ですけれども豊穣の神でもありますから。毎年ありがたいことに良い作物を授けて頂いてますわ。主人の努力の賜でもありますけど、やっぱり神様にそっぽ向かれちゃったら収穫はできませんものねえ。身につけているアミュレットも家や蔵のガントゥも毎年新しいものに替えていますのよ。願掛けかもしれませんけど、やっぱりこういう仕事は信心も大事だと思いますので。

 あら、気付かれました? そうなんです。私は元々は王都に住んでいましたのよ。それが……旅で立ち寄ったこの街で偶然主人に出会いまして。あの人、あの頃から野菜を愛する気持ちが尋常じゃ無かったんですの。私はその時はまだ十代でしたけど、生まれてこの方、あんなに情熱を持った人に初めて会いました。そうね、私の一目惚れでしたわ。農家に嫁に行きたいって父に言って、生まれて初めて頬を叩かれました。でも、若かったんですね。家を飛び出してここに強引に住み込むようにして主人と一緒になりましたの。もう遠い遠い昔話ですけどね。いまはもうお婆ちゃん。あら嬉しいわ。そんなこと言ってくれるの主人と貴方だけよ。

 でもほんと物騒よねえ。人を殺すなんて。よっぽど何か恨みでもあったんじゃないかしら? 私には分からないわ。あの人の側にいて、野菜を育てて出荷して。そうしているうちに五十年近くも経ってしまったのよね。なんの後悔もないし、喜びしかありません。死ぬまであの人と一緒にいられたらって、そう思います。あらごめんなさい。ちょっと惚気ちゃったかしら。ふふふ。

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