1.川沿い亭 客室係 ギルビー・ウォーカー

名前【キルビー・ウォーカー】

性別【男性】

年齢【四十三歳】

職業【川沿い亭 客室係】

外見【中肉中背 坊主 口髭】


 まず、第一発見者であるキルビー・ウォーカーに話を聞いた。彼は川沿い亭の客室係を長年勤めている。事件の当日、彼は非番で雨だった。深夜に雨が小降りになるまでずっと家にいたとのことだ。


 ――あの日の晩のことだろ。ちょうど雨が小降りになったんだよ。二十三時ぐらいかな。どうしても一杯だけ飲みたくなって外に出たんだ。行き先は『どん底』だよ。本当さ。店のママに聞いてもらえればすぐにわかるよ。俺、休みの日の夜は大抵あそこにいるから。

 変わった名前だよな。俺もママに一度尋ねたことがあるんだ。ママは笑顔で答えてくれたよ。明日から上がるだけでしょって。ここより下はないからって。はは、そんなくだらないことで人間て救われたりするんだなって思ったよ。

 川沿い亭には勤めてもう十五年近くなるよ。

 前は喫茶店でマスターをやってたんだ。自慢じゃないけど俺の淹れるコーヒーは美味かったんだ。なんていうか、こう、酸味があって、香りが立ってて。お客もそれなりについてたよ。

 それがあれからさ。もう二十五年も前になるのか。刃物が駄目になってから何もかもがうまくいかなくなったんだ。もちろんコーヒーミルが使えなくなってのが一番大きいよ。あれからさっぱりさ。石で潰して湯を通しゃあそれなりに色は出るけど……やっぱ違うよな。ぜんぜん違う。思うようにはいかねえよなあ。

 まああれだ。なんやかんやで廃業して、わかりやすく酒に溺れて……グズグズになってたとこを先代に拾ってもらったんだ。もっかいやってみろって。どうせお前はサービス業しかできねえんだからって。

 先代ってのは川沿い亭の先代のことだよ。四代目さ。情に厚い良い人だったね。客足が伸びなくても従業員のことを大事にしてくれたし、何より客をもてなす情熱があって。あー、俺もこうやってコーヒー淹れてたなあって思うんだよ。あの人見てると。あの人に拾われたのは本当に幸運だったと思うよ。

 チーフは才能あるよ。あの娘の気づく力は半端ねえ。時々真剣になったときの横顔が先代に見える時があるよ。まあ……あんなに早く亡くなっちまうとは思ってなかったけどさ。いまでも悔しいよ。本当に。

 ああ、昔話ばっかしちまったな。見つけたときの話だよな。わりい。

 そう……あの時、俺はまあ……いつも通り結構酔ってて……あんなに雨降ってたのに女神像見たら、あー、顔でも洗うか、って思ったんだよ。いや、本当だよ。酔っ払いってそんなもんだろ?

 コートを頭から被ってたかな。まだ結構降ってたし。でもそうやって女神像に近寄ったら……匂いが違ったんだよ。なんていうか、生臭い感じの。

 俺さ、コーヒー淹れてたから鼻だけは利くんだよ。これは、血だ……と思ったよ。そん時に。酔ってたけど、危機感というか、これはおかしい、何か違う、と思ってさ。アミュレット握りながら周りを見たんだ。

 沈んでたよ。女神像の足下に。

 最初は黒い塊に見えたけど、段々と目が慣れてきて……人が死んでるって分かったときには腰を抜かしたね。

 門番に知らせるより先に、川沿い亭が思い浮かんだんだ。一人じゃいられない感じだった。走って向かってる途中に思い出したんだよあんたのことを。川沿い亭まで行きゃ保安員もいる。大丈夫って。今思えば何が大丈夫なのかわかんないけどさ、そんときゃそう思って無我夢中で走ったよ。

 あとはあんたの知っての通りさ。もう一回確認しに行って。死体が半分に切れてたのを知ったのもその時さ。いや、本当だよ。あんたが気付いたのが先だよ。あんたの持ってたカンテラがなきゃそこまで分からねえよ。まあまあ暗かったし。俺にはそんな余裕なかったし。

 ああ、そうだよ。チーフが気遣ってくれて明日まで非番にして貰ってるけど……戻れるかな。なんかうまく眠れないんだよ。なんかさ。寝て一時間もしないうちに……死体を見つけた場面が出てくんだよ。頭の中に。ありゃ夢なのかな。汗だくで目が覚めて……へえ、フラッシュバックっていうのか。多分それだな。うん、そうだと思う。

 一時期に比べりゃ少しは落ち着いてきたけどさ、時々頭抱えて倒れそうになるときがあるんだよ。まだ怖いよ。正直。でさ、結局のところ酒の量も増えるだろ。そしてまた夢が……ああ、なんとかするよ。復帰する。いつまでも家で唸っててもしょうがないからな。

 こんなもんでいいのかい? ああそうか、一応、第一発見者ってことになるのか俺が。まあなんか聞きたいことあったらいつでも聞いてくれよ。どうせ川沿い亭で会うだろうし。

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