6:ふとした発言が原因で……

 

 土曜日の正午。


 新宿駅西口方面の大通りにある歩道を、佐伯弥太郎は一人歩いていた。


 昨日は金曜日なので、今日と明日は土日で学校が休みとなる。なのでこうして外へ出歩いていた。


 あの事件――強盗事件は、警察の介入によって幕を下ろした。


 何かの理由でルカが怒って去った後、すぐにパトカーが現場へと到着した。通報したのは被害を受けた老婆か、あるいは銃声を聞きつけた第三者かは分からないが。

 その時に駆けつけた警察官は、なんと自分を連行しようとした白人の警官だった。事件現場の一番近くにいたのは彼らだったので、自ずと彼らが一番乗りであったそうだ。

 彼らは路上でぐったりしている強盗犯よりも先に、弥太郎を疑ってかかった。しかしルカが言い残した言葉通り、被害者である老婆が証人となってくれた。

 白人警官たちは渋々弥太郎に感謝を告げると、倒れた強盗犯を叩き起こして引っ張っていった。そのうち足が折れていた黒人の強盗犯だけは救急車で運ばれた。

 それから、弥太郎は最寄りの署に連れていかれて色々事情を訊かれ、外が真っ暗になった辺りでようやく解放された。


 以上が事件後の顚末てんまつである。


 しかし弥太郎はそんな些細なことよりも、昨日のルカの態度が気になっていた。

 突然怒って先に帰ってしまった彼女。

自分は何か無礼を働いてしまったのだろうか。もしそうであるならきちんと謝りたいものだ。

 もし次に会ったなら謝罪しよう。……彼女が言った通り、腹を切らずに。


 弥太郎は現在行っている行為へ意識を戻す。


 今日は休日。その余暇を利用して、弥太郎は自身がこの東京へ来た「目的」の一部を果たそうとしていた。


 弥太郎は、「ある男」を探してここまで転校してきた。

現在、その目的の人物を探し回っている。

 主な手段は聞き込みだ。道行く人々の中から適当に見繕い、その人に「ある男」の顔写真を見せ、目撃した事があるかどうか、どこで見かけたかなどを尋ねるのだ。


 こんな闇雲な方法で見つかるとは思えない。

 しかし動かなければ何も起こらない。

 それに「あの男」は必ずこの東京にいる。なぜなら最後に会った時、彼は言ったのだ。「東京へ虎を狩りに行く」と。

虎とは、強い武術家の事だ。東京ここは他の街よりも治安が悪く、自己防衛技術が強く求められる。その分、武術家も集まりやすい。


 何より、東京には『東京三大道場』がある。

 世界レベルで見ても最大級の規模を誇る巨大道場。そこには自分など及びもつかないような恐ろしい武術家がいるという。「あの男」が狙わないはずがない。




 これ以上、あの男――支倉刀哉に人を斬らせるわけにはいかない。




 焦る気持ちが生まれたが、すぐに心を律する。焦ったところで事態が好転するわけではないことは良く知っている。なら、落ち着いていた方がまだ得だ。


 そこへ、追い討ちをかけるように腹の虫が鳴く。


 そういえば、もう昼だ。そろそろ腹が減ってきた。


 どこかで腹ごしらえをしようと視線を周囲へ巡らせる。


 蕎麦かラーメンあたりが良いかもしれないと思っていた時、ある店に目が止まった。


 蕎麦屋……ではない。というか、誰が見ても蕎麦屋でないことは一目瞭然な建物だった。


 白、黒、ピンクを基調としたポップな外観のその建物は、他に軒を連ねる店と比べて浮いているようにも見えた。ある意味、一番存在感がある。


 フワフワした雲をモチーフにした看板には、丸っこい書体で「メイド喫茶 しゅがーろーず」。


「これがメイド喫茶というものか……」


 そういえば、今までメイド喫茶になど入ったことがなかった。地元にはこういった店がなかったのだ。さすがは東京、なんでもある。


 少し好奇心が湧いた。


「ここにしてみるか」









「しゅがーろーず」は定休日である水曜日を除いては毎日営業しており、開店時間は昼の12時だ。


 従業員であるメイドさんは大体11時に出勤してきて、メイド服に着替えてから開店の準備をしていく。そうして12時になると、メイドだらけな夢の国への扉が開く。


 水越流華は店のカウンター奥にある更衣室で一人ため息を吐いた。


 ――昨日は、弥太郎くんに悪い事しちゃったわね。


 ロッカーの扉に付いた鏡には、自己嫌悪で沈んだ自分の顔が映っていた。


 昨日の強盗事件の後、ルカは弥太郎を置いて先に立ち去ってしまった。

 きっとあの後に警察が来て、捕まえた犯人と一緒に、弥太郎も事情説明のために警察署に連行されたことだろう。自分も一緒に連行されるべきだったのに、彼一人に面倒を押し付けたみたいな結果となってしまった。


 弥太郎に言われた言葉を思い出す。


『何をおっしゃる。ルカどのもなかなかにお強かったでござるぞ。合氣であのような荒々しく勇ましい戦い方が出来ようとは。この佐伯弥太郎、さらに見聞が深まったでござる』


 こんな一言に心を乱すなんて、自分もまだまだ未熟者だ。

 彼は純粋に、自分を賞賛するためにそう言ったのだろう。

 けれど、あの時のルカはその言葉を侮辱のように受け取ってしまっていた。


 ——合氣であのような荒々しく勇ましい戦い方が出来ようとは。


 この文脈が「お前は父親には遠く及ばないな」と嘲笑われいるように感じられたのだ。


 なぜなら、父の技は無駄な動きや激しさがなく、技がとても静かだからだ。そんな父と正反対だと言われたようで恥ずかしかった。


 けど、結局それはルカの勝手な想像だ。あの場で怒りに任せたことは悪手であった。


 今度弥太郎に会ったら、きちんと謝ろう。


「うん。ダメダメ! こんな気分じゃ! 夢の国の妖精さんは…………ニコニコ笑顔でご主人様をお迎えしないとにゃん♡」


 強引に仕事モードに切り替えたルカは両腕で意気込むようにガッツポーズ。


慣れた手つきで着替えを始めた。


 着ているチュニックとジーンズを脱ぎ、下着姿となった体に「制服」を着用。

 ポニーテールを解き、両側頭部で髪をそれぞれひと結びする。

 髪と同じ黒色の瞳の上に、緑のカラーコンタクトをはめる。

 着替えを終えたルカは、確認のために姿見の前に立った。


 鏡の中には――なんとも可愛らしいメイドさんがいた。


 白黒ツートーンのエプロンドレスにはフリルがたくさん付いており、スカートの丈は膝小僧の辺りまで。アニメみたいなツインテールにネコ耳型のカチューシャ。翡翠のようなグリーンアイズ。

 左胸には、丸い書体で「はな」と書かれた名札が安全ピンで付いていた。


 今のルカは柔術家「水越流華」ではない。夢の国「しゅがーろーず」の妖精さん「はな」である。


 ――そう。ルカはこの店でアルバイトをしているのだ。


 女が男じみた環境や習慣にどっぷり浸かると、その分女らしい趣味が恋しくなるという話がよくあるが、あれはあながち嘘ではない。現にルカがそれだった。


 去年、外でこの店のチラシを配っているメイドさんの服装を一目見て思ったのだ。「可愛い……」と。


 そのメイドさんから店に紹介してもらい、すぐに働くことが決まる。以来、夢の国の妖精として毎週土日にニャンニャンしている。ルカにとって最高のストレス発散だった。


 しかしながら、この事は誰にも内緒だった。

 仲暮高校がバイト禁止だという理由ももちろん当てはまる。

 だが一番の理由は、恥ずかしいからだ。

 手前味噌になるが、自分はどうやら学校では「カッコいい女子」と思われているようだ。そんな女がメイド服を着て「~だにゃん♡」なんてやってるなんて知られたらどんな顔をされることやら。想像したくもない。

 自分がここでこっそりバイトしている事は、悪友のゴッデス以外知らない。知られてはならない。


 ルカはぶんぶんとかぶりを振り、名札を見る。そうだ、今の自分は夢の国の妖精さんなのだ。俗世間での恥やしがらみなど忘れてしまえ。人生楽しんだ者勝ちだ。


「にゃん♡」


 駄目押しに鏡の前で猫ポーズ。よし、仕事モードだ。


「はなちゃーん、もう開店時間だよー」


 更衣室の外から、同僚の声がした。……ちなみに「はな」という呼び名は、流華の「華」という部分にちなんだものだ。


「はーいっ」


 ルカは可愛らしく返事をして、更衣室から出た。


 カウンター裏から、店内へと出る。すでに他のメイドさんもスタンバっていた。


 すでに時計は12時を少し過ぎている。いつご主人様がお帰りになっても不思議ではない。


 早速、店の入り口夢の国への扉が開かれた。


 ルカはやってきたご主人様に、最大限の可愛さを振り絞ってお出迎えした。


「お帰りなさいませ♡ ご主人さ――むぁ!?」


 一瞬、夢の国の妖精にあるまじき声が出た。


 新しいご主人様は、洋風な店内には場違いな武士姿をしていた。


 濃紺の羽織袴。総髪のまげ。草鞋。


 そう…………佐伯弥太郎である。


 ルカは喉から心臓が飛び出そうな気分だった。仕事モードでコーティングした心が早くも折れそうだった。


 何で武士がメイド喫茶来てんのよ!? どう見ても場違いでしょうが! 蕎麦屋にでも行っちゃいなさい! そんな叫びを心中で上げる。


「初めてここにお帰りになられたご主人様ですかぁ?」


 同僚のメイドさんの一人が弥太郎へと歩み寄ってそう尋ねた。凄いわ、彼の格好に対して少しも驚いてない。メイドさんの鏡ね。


 とにかく、弥太郎に「はな」の正体を悟られるわけにはいかない。


 幸い、今の自分はいつもの水越流華とは似ても似つかぬ容姿だ。目の色も髪型も違う。こちらからうっかりボロを出さない限りバレる心配は――


「ん? おお、ルカどのではありませぬか。もしや、ここで働いていたでござるか」


 ありまくりだった。


 ルカは床にうずくまりたい衝動に駆られた。


 キュートなメイド服の下に嫌な汗をかく。心音が激しくビートを刻む。


 けれど、ここで変なリアクションを見せたら負けだ。自分はルカではない。夢の国の住人「はな」だ。自分は「はな」、自分は「はな」……


「な、何のことですかにゃん? 私は夢の国「しゅがーろーず」の妖精「はな」ですにゃん♡ ささ、ご主人様、こちらへどうぞですにゃん♡」


 そうシラを切ってきびすを返し、店内まで案内しようとするが、


「いや、やはりルカどのでござろう?その足捌き、水越流の運足でござる」


 ぴしり。ルカの中にある「何か」に、広い亀裂が入った気がした。


 習慣とは恐ろしい。柔術の動きが体に染み付きすぎているせいで思わず出てしまった。


「それに動きの要所要所に、ルカどのと同じクセが見られる」


 どんどん追い詰められていくルカ。


 熟練した武術家というのは、相手の動作に含まれる何気ないクセを見抜くのが途轍もなく上手いのだ。そこから相手の出方を計算したりする。逆に、相手にわざと間違ったクセを見せて自分の望む通りの対応をさせてそこを攻めたりなどもする。


 マズイ。非常にマズイ。

 この場だけは口八丁で誤魔化して切り抜ける事が出来るかもしれない。

 問題はその後だ。もし学校でバイトの事を喋られでもしたらルカの立場が危うい。


 口止めが必要だ。


 ルカは弥太郎の腕を掴み、店の出入り口へ無理矢理引っ張り込んでいく。


「ぬおっ? ルカどの、どうなされたっ?」

「ちょ、ちょっとこちらのご主人様にご用がありますので、少しだけお暇をいただくにゃん♡」


 同僚たちにそう言い、ネコミミメイドは武士を連れて店の外へ出て行った。







 店の近くにある路地裏。そこの冷たい壁に寄りかかった弥太郎の頭の横へ、ドンッ!!と片手を付いた。

 俗に言う「壁ドン」の体勢。異性にやられることに少しだけ憧れを抱いていたが、よもや自分がやる側になるとは思わなかった。


「ル、ルカどの?」


 困惑した様子の弥太郎の事など気にも留めないまま、一方的に押し付けるように言った。


「誰にも言わないで!!」

「む?」

「だから! 誰にも言わないでって言ったの! その……私があの店で働いてること!」

「な、何故でござるか」

「どうしてもよ! とにかく他言無用でお願い!」


 吐息がぶつかるほどの距離で言いつのるルカ。もう少しで唇同士がぶつかりそうな狭さだったが、今は気にしていられない。


 弥太郎はふと思案し、すぐ思い出したように呟く。


「そういえば生徒手帳に「アルバイト禁止」と書いてあったような……」


 ルカは苦々しく眉間にシワを寄せた。ちっ、気づかれたか。


 すると、弥太郎はいたずらをした子供をたしなめるような口調で言った。


「ルカどの、規則や掟は守らねばなりませぬぞ。規則を守ってこそ正しい秩序が保たれるのでござる。新撰組の局中法度きょくちゅうはっともそのために作られたのですから」


 着物で学校通ってるあんたに言われたくないわよ! という発言が喉元まで出かかるが、仲暮高校は私服登校OKなのだった。


 正論である。この現代で切腹しようとした男の口から出たとは思えないほどの。


「ぐ…….君の言う通りだわ。確かに私は校則を破ってる。それは認めざるを得ない事実よ。「ルールは守るべき」という君の主張ももっともだわ。局中法度の無い新撰組なんてただの血の気の多い田舎侍の寄せ集めだもの。でもね……ルールより大事なモノもあるとは思わないっ?」

「む?」

「私はあると思うわっ。たとえばその人の生き方とか、ポリシーとか、アイデンティティとか、そういった人生の基盤に関わる重要な事。もしそれが無くなったら、その人はその人じゃなくなってしまうという大切なもの。君も武士道とその着物をいつも大事に身につけてるでしょ? 私にとってはあの店でメイドさんとして働くことがソレに当たるのよ」


 無茶苦茶な事を言っている自覚はあった。でもこの場はなんとしても言いくるめておきたかった。


「むう……確かに、ルカどのの意見にも一理あるでござる」


 幸いにも、弥太郎は頷きながら納得している様子。武士道を引き合いに出したのが効いたようだった。


「だからお願い弥太郎くん。この事は黙っていて。私から生き甲斐を、私が私でいられる大事なものを……奪わないで」


 我ながら大げさな言い方で同情を引くルカ。


 弥太郎は目を閉じて黙想し、しばらくしてルカを真っ直ぐ見て微笑み混じりに言った。


「あいわかった。この佐伯弥太郎、他言無用に致そう。たとえ水攻めの拷問にかけられても決して口を割らぬことを誓いまする」

「いや、今時水攻めなんてする奴いないと思うけど……でも、ありがとう」

「うむ」


 今一度頷く武士。いよっしゃ、説得は大成功。心の中でガッツポーズ。将来は外交官にでもなろうかしら。


「それにしても……「メイド服」というのはなかなか面妖な恰好でござるなぁ。それにやや機能性に欠けているように見える。そのような丈の短いスカートでは、足の動きを隠せぬでござろう?」

「い、いいのよ。別に戦う目的で作られた服装じゃないんだし。どうかしらこれ、可愛い服だと思わない?」

「確かに、洋風な愛らしさを感じるでござるな。着ている者の素材が抜群な分、その魅力がさらに際立っているように見える」


 しみじみとメイド服の感想を述べる武士。


「っ……そ、そうでしょ?」


 ルカは平然とそう言いながらも、少し顔が熱くなっていた。


 さりげなく、自分の容姿を褒められたからだ。

 のほほんとした弥太郎の顔を見るに、素直な感想を述べただけだろう。しかしだからこそルカの心によく響いた。

 嫌ではない。むしろ嬉しかった。自分の見た目を美しいと褒められて喜ばない女はいない。


 ルカの胸中には羞恥心と歓喜が一緒に渦巻いていた。


 けれどもその温かい感情は、次に弥太郎が何気なく発した言葉とともに絶対零度の冷たさへと急降下した。




「それにしても意外でござった。水越宗一氏の娘の事であるから、休日も稽古漬けだと思っていたのだが、まさかかような店で働いていようとは」




 ――意外でござった。

 ――水越宗一氏の娘。

 ――かような店で働いていようとは。


「何よ、それ」


 それらの文脈が混じった発言は悪い意味で高い相乗効果を発揮し、ルカの精神をこの上なく逆なでした。


「私が……あの店で働いてたらおかしいっていうの?」


 まるで遠回しに「怠慢だ」と非難されているように聞こえた。

 まるで遠回しに「水越流の未来が心配だ」と憐憫を抱かれているように聞こえた。

 まるで遠回しに「コレが英武館の館長になるのか」と嘲笑されているように聞こえた。


 無論、それはルカの勝手な思い込みに他ならない。そもそも弥太郎には、自分が英武館をいつか受け継ぐことを話していないのだから。

 けれども、一度高ぶった感情はまるで坂から転がり落ちるボールのようにとどまることを知らない。

 今、自分が一番悩んでいる事に土足で踏み入られた気がして、どうしようもなく腹が立った。


 ルカが発するただならぬ空気を悟ったのだろう。弥太郎はたじろぎ気味に話しかけてきた。


「いや、別に変というわけでは……ただ、意外だったというだけで……」

「うるさいわよ!! あんたの勝手なイメージ人に押し付けないでよ!! こっちの気も知らないで!!」


 とうとう我慢できなくなり、弥太郎を怒鳴りつけた。


「お、落ち着かれよルカどの。貴公は何か勘違いをしておられる。一度冷静に——」

「うるっさいっ!!」


 子供の癇癪かんしゃくのように喚き散らす。

 自分でも驚いていた。ここまでヒステリックな声で叫べるなんて。

 ルカは少し深呼吸をしてある程度の冷静さを取り戻すと、弥太郎をキッと睨め付けて、


「勝負しなさい」

「む?」

「勝負しなさいって言ってるのよ!! もし私が勝ったら二度と知った風な口利かないで!! 代わりに君が勝ったら、君の言うことなんでも一つ聞いてあげるわ!!」


 黙らせたかった。

 この無神経な男の口を、縫い付けて開けなくてしてやりたかった。

 何より、自分の力を誇示してやりたかった。自分が武術家としてきちんと成長していることを、この男の身に教えてやりたかった。


 弥太郎はその提案にしばらく戸惑いを見せるが、ルカの眼差しの奥にある固い決意を読み取ったことですぐに迷いを殺した。緊張感のある声で、


「……本気でござるか」

「本気よ」

「……あいわかった。それならば、ソレガシもそれなりの対応をせねば礼に失するというもの」


 言うや、弥太郎は体の側面を相手に向けた真半身まはんみの立ち方となる。やや腰を落とし、少し肘を曲げた両腕を左右へ広げて構えた。自分のまとを極限まで小さくしつつ、相手の攻撃にも即座に防御とカウンターを返せるであろう機能的な構え。


「穂高勁水流『十文字じゅうもんじの構え』にそうろう。参られよ、ルカどの」


 対し、ルカも慣れ親しんだ半身の構えを取った。

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