第2話

 私の名前は石田晴琉香いしだはるか。どこにでもいる普通の女子高生です。異世界系ラノベが大好きな普通の女子高生です。

 異世界ものはロマンです!かつて現実世界に住んでいた者が突如異世界に転生し、ファンタジー世界で冒険を繰り広げるのです!こんな素敵なこと他にないですよね?

 どこまでもつづく平原、そして森林、洞窟、高山、大海原を進む大冒険。ドラゴンの吹く火には強力な風の魔法で対抗し、悪の組織の権謀術数にはさらに上を行く知略で挑む。あぁ、妄想力がかき立てられる~。

 読んで読んで、読みまくりました。自分で思い返しても苦笑するくらいに。寝る間を惜しんで読んで――打ち明けちゃうと、時には学校の授業中にこっそり読んだりしていました。

 好きが高じて、自分で書いてみるということもありました。でも、無理だったのね、これが。自分の文章力のなさに失望しただけ。

 まぁ、言ってもそこまで失望はしなかったんだけどっ。やっぱり私は書いてるより読んでる方が性に合ってるみたい。

 思うんだけど、妄想力が強すぎる人は、そんな傾向がある気がする。書くより読む方が好きっていう。昔どこかの本で、書くよりも読む方がよっぽど想像力の必要な行為なんだって、作者自身が言っているのを見掛けたことがある。たぶんそうなのかも。

 あっ、ちょっと話が逸れちゃった。で、異世界の話よね。そんなこんなで私は異世界ものの物語を読んで読んで読みまくったの。すっかりのめり込んでいっちゃって……。

 で、ある日突然気付いたの。世の中には異世界ものの物語が溢れているじゃない?毎シーズンのアニメには必ず異世界ものが一つはあるし、ラノベの売れ筋も異世界ものだし、ネット投稿サイトではもうこれでもかってくらいの物語の洪水なの。右を見ても左を見ても異世界っていう状況なのね。

 それで思ったの。

 ――これだけたくさんあるんだったら、一つくらい事実が混じっていてもおかしくないんじゃない?

 だってそうでしょう?宝くじの当たる確率は限りなくゼロに近かったとしても、くじを全部買い占めるほどたくさん買えば、当たりは必ず一つある。

 それに宝くじの数は発行された分だけで、多くても限りはある。でも異世界ものの物語は、これからもどんどん増えていく。ほとんど無限に増えていくの。限られた数の宝くじに当たりがあるなら、無限の異世界の物語に事実が一つあったと言っても、変なことはないでしょ?

 一度そう思ったらもう迷わなかった。私、異世界に転生してみせる!たくさんある異世界の物語に一つ事実の物語があるなら、異世界はどこかにあるはず。夢の世界がどこかに広がっているの!そこに行けるかどうか?行けるに決まっているわ!だってその事実の物語を書いた作者はそこに行ったことがあるはずだもの。

 問題はどうやって行くかなのよね……。でも、今日の授業中、思いついちゃった。異世界へ行く方法をね。

 それと決まればやるっきゃないわ。本当は屋上へ行きたいけど、立ち入り禁止なのよね。仕方ないから、渡り廊下に行こう。

 もしかしたら今日ついに異世界に行けるかも知れないっ。そう思うと胸が弾むよ~♪

 嬉しくて、嬉しすぎて、さっきクラスメイトに話しちゃったの。異世界に行く方法が分かったかも知れないって。

 そしたら讃えてくれた!“良かったね、晴琉香”“おめでとう、晴琉香”いつも分かってくれないけど、今度ばかりはそうじゃなかった。ただ、言い方が棒読みで、目が輝いていなかったのはなんでだろう……。

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