0円でなんでも盗み放題なコンビニ

ちびまるフォイ

店員は2人いる

「なぁ、コンビニで万引きしようぜ」


「空き地で野球に誘うようなテンションで言うのな」


「ちげーって。万引き専用コンビニができたんだよ。

 そこに言ってみようぜって話」


「万引き専用……?」


「店内の品物はすべて無料。ただし、万引きじゃないとダメ。

 見つかって捕まると倍の料金を支払わされるって店なんだ」


「そんなん1人で行けばいいだろ」


「バッカ。わかってないなぁ。

 1人じゃ成功しないからこうして裸で土下座してるんだろ」


「2人ならうまくいくのか?」

「当たり前よ」


友達の口車に乗せられて万引き用コンビニにやってきた。


「見た目は普通のと同じだな」


店内に入ると、陳列棚も通常のコンビニと同じ。

上を見上げれば監視カメラが威圧的に動いている。


「おいこっちだ。こっちが死角だ」


「もう調べてるのかよ」


「この時間は利用者が多いし、人の出入りが多い。

 お前がそこに立って俺の手元を隠すんだよ」


「なるほど、俺は壁役ってわけか」


「お前は普通にしていればいいからな。怪しまれるなよ」


友達は肩から下げていたスクールバッグの口を開けて、

すばやく棚にある小さなお菓子を入れた。


「よし! よし! 上手くいった! 行くぞ!!」

「お、押すなって」


早足で外に出ようとした時。



「お客様、まだレジ通されてない商品がありますよね?」




「ナンノコトカナー……」


「カバン見せてもらってもいいですか?」


カバンからお菓子を取り上げられてしまった。


「はい、それじゃレジへどうぞ」

「ちくしょーー!!」


友達は悔しそうにお金を払って、

レジ横にあるからあげを買って帰った。


「ありがとうございましたーー」


わざとらしいほど妙に愛想のいい店員に送り出された。

公園で買ってきたからあげ串を二人で食べながら反省会は行われた。


「なんでバレたんだ。レジにいる店員からは死角だったし

 監視カメラからも確実に見えなかったのに……」


「いや、店員もうひとりいたよ」


「まじで!?」


「店員は3人いたんだよ。レジの店員と、店内を巡回する店員。

 それと、飲み物の棚を通して裏から監視している店員」


「気づいてたなら教えてくれよ!!」


「いや、普通にしろって言われてたし」


「あーー! くそ! だからバレたのか!

 きっと、どれかの店員が俺の動きを見ていて、

 それを他の店員に合図かなにか送ったんだ! 万引きGメンか!」


「まぁ、万引きは難しいし、これに懲りたら……」


「いいや諦めない!! 俺はなんとしても万引きしてみせる!」


「その万引きにかける情熱なんなんだよ。

 別に生活苦ってわけでもないだろう?」


「男は!! 犯罪歴のひとつでもある方が、モテるんだよ!!」


「もう平成も終わるのにその価値観ってお前やばいな」


とはいえ、友達に付き合って、再チャレンジすることに。


今度はバレないようにどうすればいいかあれこれ考えたが

品行方正な生活を送ってきた真面目オタの2人の頭から

完璧な犯罪計画など立案できるはずもなく、しまいには


「もうさ、強引に盗まねぇ?」


計画ですらない結論にたどりついた。


「強引にってどうするのさ」


「2人が離れて同時に盗むんだよ。

 片方はレジで精算しているときに、捕まらなかった片方はダッシュ。

 そのまま店の外に出れば万引き完了だろ」


「もはや万引きっていうより強奪に近い……」


「いいんだよ! 大事なのは過程ではなく結果だって!」


そして、また懲りずに万引き用コンビニにやってきた。

以前とは違った、まるで魔王の城のようなたたずまいに見えてくる。


「行くぞ……!」


二人でコンビニ入ると、店員はいつもの位置にいることを確認。


レジに1人、巡回で1人、裏に1人。

急な精算に対応できるのは1人だけ。


「俺はお菓子コーナーに行く」


「わかった。こっちはおにぎりコーナーへ行く」


あえて離れた位置にポジショニングする。


友達は死角が多く、逃げ道の選択肢が多いお菓子コーナー。

一方で、俺は出口までの直線距離がもっとも短いおにぎりコーナー。


事前に打ち合わせしていた時間まであと3秒。


2。


1。


(いまだ!)


おにぎりをカバンに、友達もお菓子をカバンに入れた。


巡回役の店員は近くにいた俺をすぐに捕まえる。


「君、まだ精算されてないものが――」


「いっけーー!!」


俺の手を掴んだ店員の手を逆に握り返す。

友達はお菓子の棚を離れ出口に向かって猛ダッシュ。


かつて帰宅部として100mを10秒台で駆け抜けた俊足は

いま、初めてあの頃の輝きを取り戻したように動く。


そして――!!



「痛ったぁ!!!」


開かない自動ドアに激突し、友達は出口でもんどり打っていた。


「うわぁ……」


見ていても言葉をなくすほどの痛々しさだった。

このときほど強化ガラスが攻撃的に見えたことはない。


俺を捕まえていた店員の手には小さなスイッチが握られていた。


おそらく、これで自動ドアを開かないようにできるのだろう。

やっぱり学生の浅知恵で万引きコンビニを攻略できるなんて無理だった。


「やっぱりコンビニには勝てなかったよ……」


友達はそれだけ言い残して二度と挑戦することはなかった。



「お会計、260円になります」


「はい」


俺もレジで通常の金額の2倍を支払っておにぎりを買い取った。


「あの、店員さん」

「はい?」


「こんなに警備の厳しい万引きコンビニで、

 うまく万引きできた人っていままでいるんですか?

 こんなの絶対ムリだと思うんですけど……」


男はニコリと笑って答えた。




「君も、店員になりすますといいよ。

 こっち側にもぐりこめばいつでも盗り放題さ」

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