第11話 降り注ぐ涙雨


 コンビニに到着した俺は自動ドアをくぐり、店内へと足を踏み入れた。

 

 「いらっしゃいませー」

 

 レジにいる男性店員は何か作業をしているのか、目線は手元に向けたまま抑揚の無い声でマニュアル通りの挨拶をした。

 

 さあ、せっかくコンビニに来たんだ。気を取り直して行こう!

 

 この世界のコンビニに来るのは初めてなので、一体どんなものが売られているのか、少しワクワクしながら店内に置いてある商品を見て回る。

 

 「おぉ……、びっくりするくらい普通のコンビニだぁ……」

 

 一通り店内を見た俺は思わず心の声を漏らした。

 

 何故なら漫画・雑誌コーナーや日用品コーナー、食べ物・飲み物のコーナーなどのどこかで見た事があるような商品ばかりが販売されていたからだ。

 この世界に来てもう何度目か分からないが、『ここ、本当に異世界なのか?』という疑問が再び頭をよぎった。

 

 と、ここで俺はある場所に目が止める。

 

 「おっ、10円菓子コーナーだ」

 

 そこにはたくさんのお菓子が10ゴールドで販売されていた。やっぱりこっちの世界にも手軽に購入できるお菓子があるんだなぁ……。

 

 俺は豊富な種類の10ゴールド菓子から気になったものを手に取っていく。

 まずは数ある10ゴールド菓子の中でも色々な意味で特に目立っている『マンモスチョコ』とやらを手に取ってみる。

 

 ここで俺が感じた意見を率直に言おう。

 これ、あれだ。マンモスの全身を型どったやたらと大きいチョコの塊、って表現がドンピシャだ。しかもズッシリと重い。これが10ゴールドとか本当にもう、色々と訳が分からない。

 

 はい、次。

 

 今度は『スライムガム』という名前の10ゴールドガムを見てみる。おぉ……名前が……なんか、あれだね。異世界らしくて良いと思うよ。

 

 ………正直、そのくらいの感想しか出てこない。

 だってこれ、完全に見た目が普通の10円ガムだもん。いや、別に普通が駄目って訳じゃないんだよ?むしろ普通な事は良い事だと思うよ?

 そうして、買っちゃおうかな~と少し考えながら商品の裏を何気なく見た俺は思わず戦慄した。

 そこにはびっしりと細かく赤い字でこんな注意事項が記載されていた。

 以下、原文ママである。

 

 『本製品をしばらく噛んで味が無くなったと感じたら紙に包んで必ずゴミ箱に捨てて下さい。本製品は乾燥すると極めて強力な粘着力が生まれます。一度くっついたら二度と離れません。道端へのポイ捨ては絶対にやめて下さい。本製品が原因で起こった交通事故などの犯罪、災害などには一切責任を負いません』

 


 ………俺、お菓子の注意欄に交通事故や災害の責任取れないって文章書かれてるの、初めて見た。

 

 だが、ようやくだ。

 ようやく俺の知ってる異世界らしい、常識の範囲から大気圏をぶち抜かんばかりの勢いで逸脱した物を見つけることが出来たのだ。

 元の世界でこの文を見たらびっくりするくらい読む気力が湧き上がってこないであろう注意事項を眺めながら、軽い感動を覚えた。


 いやぁ、これは今回唯一の収穫ではなかろうか。

 

 ………『唯一の収穫ではなかろうか』じゃねぇよ。こんなもん、知ってどうすんだよ。

 

 とりあえず俺はこの2つの駄菓子の他に、いくつかの10ゴールド菓子を適当に見繕い、さらに美味しそうな鮭おにぎりを一つ選んで、それらをレジへと持っていく。

 

 「これ、お願いします」

 

 俺は手に持っていた商品をレジに置いた。

 店員は無言でバーコードリーダーを次々に商品にかざしていく。

 商品にかざすと聞き慣れたピッという電子音が鳴り、その度にレジ横のモニターに商品の金額が加算された数字が表示される。


 そしてその流れのまま、いつの間にかレジカウンターの上に出されていたレジ袋の中に、会計済みの商品が驚くほど乱雑に詰め込まれていく。


 あまりの雑さに俺は驚いたような表情を作り、レジ袋と男性店員の顔を交互に見て「え?お前なにしてんの?正気か?」という無言のメッセージを送る。

 

 だがしかし、当の店員はこちらを一度も見ようとしない。


 いや、絶対視界に入ってるだろ、こっち見ろやと思わずにはいられなかった俺。

 店員の顔を瞬きをせずに凝視し続けるというささやかな抵抗を行う。

 ………ちょっとそこ!『チキン野郎』とか言わないで!傷つくから!

 

 そうしている間に店員が最後の商品をかざし終え、モニターに全商品の合計金額『190 ゴールド』が表示された。

 

 「……それではこちらの商品、全部で190ゴールドになります」

 

 店員は目線を下に向けながら言った。

 こちらを見る気配はない。

 いい加減、眼球がパッサパサになってきたので俺はここらで諦めて、ゴソゴソと金の入っている袋をまさぐる。

 

 「190……あ、じゃあ丁度でお願いします」

 

 「はい、190ゴールド丁度お預かりします。……では、こちらがレシートになります。ありがとうございました、またお越しくださいませー」

 

 

 ―――そうして俺は自動ドアをくぐって外へ出た。

 冷房の効いた店内の一歩外では、燦々と太陽が輝き、そして熱気を放っている。

 俺はそんな暑苦しい太陽に身を焦がされているのを実感しながら、雲ひとつない青空を見上げ呟いた。

 

 「………元の世界に帰りてぇ……」

 

 俺の中の様々な感情や思いが入り混じったものが、思わず口から零れ落ちた。


 それにつられたのか、俺の目の端からも何かが零れたような気がする。

 

 ………あれ?おかしいな、晴れてるはずなのに。天気雨でも降ってるのかな……(涙声)

 

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