イカマヨネーズ

吉田健康第一

イカマヨネーズ

イカ イカイカ イカマヨネーズ!


 キャッチーなワードとリズミカルなテンポが耳の奥深くまで染み込んでいく。

今日も俺はイカマヨネーズを買うだろう。

 思えばここ1年毎日のように食してきた。

この味わいが病みつきになり、店員とも顔見知りの間柄だ。


イカ イカイカ イカマヨネーズ!


 ああ、うるさいな。そんなに言わなくても俺は買うさ。



イカ イカイカ イカマヨネーズ!


 結構な音量で流れてくるが、近くにスピーカーは見当たらない。



イカ イカイカ イカマヨネーズ!


 まあいいさ、と一つ手に取りカゴへと落とす。

今日の俺はゴキゲンだ。なぜならあの子がレジにいるから。


「いらっしゃいませ。ポイントカードはよろしいでしょうか。」

「あ、ちょっと待ってください。」

 本当は持っていないが、あの子と少しでも長くいたいから、財布を何度もくまなく探す。いつものことだが、いつもだからこそ聞く方も聞く方だ。

「ごめんなさい。ありませんでした。」

 下手くそな笑みでうわべを作るが、彼女の視線は俺にない。

手元のビールのバーコードを探しながら会話が進む。

「袋はいりますか。」

 こいつめ、と憎みを覚えるが、それもまあ彼女の良さだ。

「1つください。」

「かしこまりました。お箸は何膳おつけいたしますか。」

おいおい、今日は積極的だな!

「2つで。」

「お会計が978円です。レシートは大丈夫ですか。」

「いりません。これちょうどです。」

「はい。978円ちょうどお預かり致します。ありがとうございました。またお越しくださいませ。」

 一連の流れが済むと彼女は次の方どうぞ、とそっけなく他の奴を相手にする。

そんな冷たさも彼女の長所だ。可愛げがあって最高じゃないか。


 イカマヨネーズ

彼女との出会いはこいつから始まった。

俺と彼女をつなぐ架け橋だ。

こいつがあるから俺はまたあのスーパーへ行くことができる。

 イカマヨネーズ

雨の日も風の日も台風の日だってこれを求めて店へ通った。

あかい斑点が浮かぶこともあったが、手に取るほどのことでもない。

 いつだって俺はイカマヨネーズだ。

俺はイカマヨネーズだ。

俺はイカマヨネーズだ…?


俺が…イカマヨネーズ……?


 



イカマヨネーズにはやっぱりビールが一番だ。

お前もそう思うだろう?


 ただ、今日はひじきの煮付けにでもしておくべきだったかもしれないな。




イカ イカイカ イカマヨネーズ!



冷たくなった手のひらにそっとマヨネーズを添えて。



         − イカマヨネーズ編 完 −

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