“か”『隠し事』

 私は、親友が片想いをしている相手に恋に落ちてしまった。

 それでも彼女から彼をうばうつもりは微塵みじんもない。

 彼女に頼まれて彼から色々と聞き出しているうちに、いつしか彼にかれ、心がコントロール出来なくなってしまっていた。



 ある日、彼女は心を決めて私に言った。

「あたし、告白する!」

 私は一瞬、耳を疑ってしまう。

「え……?」

 そうか、ついに彼女は決めてしまったのか。

 私は意味もなく、ティースプーンをつまんで紅茶を軽くかき混ぜた。同時にカツンと小さく鳴る。

「そうか、ついに告白するんだね。想いが伝わるといいね」

 今、ちゃんと笑えているだろうか。胸が苦しくて、彼女と視線を合わせられない。

 でも、彼女が彼の相手になるのなら、私はきっとあきらめられる。

 だって、彼女は私の大切な親友だから。私は本当に彼女が大好きだから。

 その時、喫茶店のドアが開く音がした。誰かがこちらへ歩いてくる。

「こんにちは。窓から見えたから、入ってきちゃったよ」

 え――……

 彼だ。

「あ! こんにちは。偶然ですね!」

 彼女はとても嬉しそうに彼に返事をした。

「こんにちは……!」

 どうして、ここに……?

 まさかこんな所で彼と出くわすとは、一体誰が予想できただろうか。

「よかった。君に伝えたい事があったんだよ」

「私……?」

 彼が見ているのは、私だった。

「少しだけ、彼女を借りてもいい? 本当にすぐに戻るから」

 そんな彼の言葉に、彼女の表情が一瞬だけ陰ったのを私は見逃さなかった。

「ええ、どうぞ」

「え、でも……」

 私はどうしたら良いのか分からなくなる。

「じゃあ、ちょっとだけ」

 彼が私の腕を掴みながらそう言うと、少し離れた席まで歩き出した。力強い大きな手の感覚に、胸がどきりと高鳴ってしまう。

「ちょっとだけここの席を借りよう。さあ、座って」

「あ、はい……」

 私が椅子に腰を下ろすと、彼はすぐに口を開いた。

「最近、会ってなかったね」

「そうですね。ちょっと、忙しかったので……」

「そうだったんだね。今日、君に会えて嬉しいよ」

「え? あ、ありがとうございます」

「ずっと君に会いたかったんだ」

 その言葉に、私はちらりと彼を見た。目の前には、彼の真剣な眼差しが私に向けられている。

 先程から落ち着かない鼓動が、更に加速を始めた気がした。


 ずっと会いたかった?

 私に?


「君と色々な話をしていくうちに、君を好きになった。僕と、付き合って欲しい」

「私は――」



〝私もあなたのことが好きです〟



 その言葉は、呑み込んだ。


*了*

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