第6話思惑

「まだ歌えぬのか?」

「…………まだです」

暗闇の中で、何者かが話をしていた。姿無くとも声だけは聞こえる。そんな不思議な光景は、星ひとつない雨の夜だからだろう。


ため息をつきたくなるような重苦しい空気が流れる。それを振り払うかのように、急がせる声がまた告げていた。


「急げよ。もうすぐ、星降りの大祭ぞ。汝の時間もそこまでしかない。それまでに、何としてでも歌わせるのだ。それこそが汝の契約の一部のはず」

「分かっています」

間髪入れずに答えたその声は、稲妻の音と光にかき消さる。だが、それは相手にも聞こえたのだろう。


雨だけがこの世界でただ一つの音となる。


「メル……」

再び稲光が周囲を明るく染めた時、星樹に寄りかかるように立つアムルの姿がそこにあった。

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