HeartBreakerZ
小紫-こむらさきー
STEP1:失恋に乾杯
「正気か?クリスマス前のこの時期に?ってなりますよ。マジで……一度連絡が取れたのはいいもののそっからデートも全部ドタキャン……からの再び音信不通……俺は前世でなにをした……」
日本有数の繁華街の大衆居酒屋で、キンキンに冷えたビールを喉に流し込んだ僕はその言葉を聞いて机につっぷした。
目の前には、大学で同じサークルで2つ上の
くつろいだ様子の二人は、日本酒の入った徳利を傾けて、お猪口に注いでいる。俺の失恋話がそんなに酒の肴になるかー!と叫び出したい気分だけど、肴にしてもいいからとにかく誰かにこの理不尽をぶつけたくて彼女持ちの先輩たちを急遽呼び出したのだから、文句は言えない。
「ひひひ…あー。さいっこー。クリスマス一ヶ月前に失恋なーつらいよなーちょうわかるー」
「俺は普通に彼女作って、恋愛して結婚したいだけなのに……なんで……なんで……」
冬木先輩が愉快そうに笑うのを忌々しげに見た俺は、残っていたビールを一気に喉に流し込んで再び机に突っ伏した。
「あれーなんだっけ? ナンパして出来た彼女? あ! すみませーんおねーさんビールもう一杯よろしくー」
「ちがいます! 街コンです!」
俺のことをからかうように笑う冬木先輩の言葉を、強めの語気で否定する。
彼女……いや、元カノの理恵さんとは地元の街コンで知り合って、いい感じになってそのまま順調に付き合っていた。はずだった。
温泉旅行にも行ったりして、本当に仲良くやってたと思うんだけど先週、11月に入った途端に突然連絡が取れなくなったのだ。
「あーそうだったそうだった。思い当たるフシとかあんの?」
「あったらこんなところでのんでませんよぉ~今日も本来なら彼女とデートでディナーにいくところだったのに……」
「おーおー。こんなところで悪かったなー」
酔ってきたのかつい失言をしてしまったものの、秋山先輩はさっきから日本酒を静かに飲んでるだけだし、冬木先輩はちょっと唇を尖らせて俺の背中をバシンと叩いてケラケラと笑っている。
「はー。Twitterのアカウントバレしたのかなーそれしかもう思い当たらない……いやそんなヤバイことは書いてないと思うんだけどなー」
「SNSは彼女のアカウント探して先行ブロックが鉄則!」
「そういえばさー
真剣な顔で口の前に指でバツを作った冬木先輩は、すぐに真顔を崩してケラケラと笑い始める。
そんな冬木先輩を見て呆れるように首を横に振った秋山先輩は、深いため息を吐いた。
「はい? 秋山先輩酔ってます? 彼女がいたんですよ僕? 彼女は好きでしたよ!」
「あー、ちがうちがう。えーっとさ、なんていうんだろ。彼女となんで付き合ったの?」
突拍子もない質問に、俺は露骨に首を傾げながら声を大きくした。
しかし、どうやら言いたいことが違ったらしい。秋山先輩は前に出した手を左右に振って言葉を選びながら新たに質問を繰り出してきた。
なんで付き合ったの? と言われて、俺は言葉に詰まる。
「えーっと、髪が長くて色白で可愛くて浮気しなそうでメガネが似合う文学少女っぽい見た目がいいな好みーって思ったのと、俺がするゲームとかアニメの話も嫌がらずに連絡を返してくれたから?」
「最終的には連絡先を無視されてこのザマだけどな……クク」
「ちょっと冬木先輩うるさい! 飲め!」
「ごめんごめん……! っはー。たのしー」
横槍を入れて来た冬木先輩のお猪口に並々とお酒を注ぐ。冬木先輩は笑いながら俺が注いだ日本酒を一気に飲み干すと、羽織っていたパーカーを脱いで壁にもたれかかった。
ちょっとウザいときもあるけど、なんか憎めないよなー。
酔ってご機嫌になっている冬木先輩を横目で見ていると、顎に手を当ててなにか考えていた様子の秋山先輩が再び口を開く。
「あのさ、宇美野くんはさー好みだから彼女を好きになったの?それとも彼女の特徴が好みになったの?」
「え?」
更に思ってもみない質問に、俺はぽかんと口を開けてしまった。
好みだから好きと、好きになったから好み? てつがく? なにそれ?
冬木先輩の方を見て助けを求めるけど、こういうときに限って冬木先輩は口を挟んでこない。
運ばれてきたビールを俺の目の前に置いた冬木先輩が、空になった徳利を店員さんに渡してなにか追加注文をしてる声が聞こえる。
「あー、なるほどな。じゃあスタートラインに立つ前の段階からの仕込みが必要だな」
ポンっと掌を拳で叩いて納得したポーズをした秋山先輩がそんなことを言うと、注文が終わったらしい冬木先輩が肩を組んできた。
「お! おもしろそー」
「え? ええ? どういうこと?」
他人事だからってそうやって面白がる! 初彼女に振られた後輩を労って! って言おうとしたけど、冬木先輩が俺の目の前に数枚の万札を出したのでスンっと出しかけた言葉を呑み込んだ。
「今日は俺らがおごってやるし、軍資金も多少カバーしてやるからさ、明日また飲み会な。予定空けとけよ」
「じゃー、今回冬木のツテ借りていい?」
「秋さんの方が無理ならそれで」
二人が何か話しているけど、なにがなんだかわからない。とりあえず明日予定をあければいいのはわかったけど、よくわからないのに予定を承諾するのも癪だ。
「全然わかんないんすけど、どういうことです?」
景気づけにビールを一口飲んだ俺は、スマホの画面をタップしながら、話し込んでいる先輩二人に身を乗り出しながら質問をしてみた。
「まずは理屈抜きの恋に落ちることが第一歩ってやつ?」
「まー、とりあえず今日は飲もう! 初失恋おめでとう! 改めて乾杯!」
「もうよくわからないけど、とにかくごちそうさまでーす!」
よくわからなけど、とりあえず奢りになったし、酔いも回ってきて頭も回らない。
明日の予定だけスケジュールに登録して、俺達は改めて乾杯をするとそれぞれ持っていたグラスの中身を空にした。
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