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 そんな出来事を、不満たっぷりな荒っぽい冬将軍で書き殴った文字で伝えられて、妙乃のお母さんはお腹を抱えて大笑いしていました。

 妙乃はというと、笑われたことにこれまた憤慨して、頬を赤らめてぷっくりと膨らませています。

「いやー、ほんっとあなたって子は、昔っからそそっかしいんだから」

 お母さんは、笑いすぎて零れた涙を指で拭います。

 それから、笑いの余韻を飛ばそうと、酔いを醒ますように長く音を立てて息を吐き出していきます。

「それにしても、自分のことをなんでも以心伝心で分かってくれないで拗ねるなんて、妙乃は心の底からその隆文さんが好きなのね」

 しみじみと呟いたお母さんの言葉に、妙乃は一瞬ついていけませんでした。

 そしてその意味を理解して、顔を真っ赤にしてお母さんに抗議するのです。

 でも、そんなものは、すぐにお母さんに一蹴されました。

「あらま、そんなにねんねだとお母さん困ってしまうわ。さっさと結婚して孫を抱かせなさいな。愛してるのでしょう?」

 お母さんの決めつけに、妙乃は空気を切って首を横に振ります。なんてとんでもないことを言うのだろうと、腕を体の横で振って、やりきれない感情を露わにしました。

 そんな妙乃を、お母さんは睨むように目を細めて見ます。

「妙乃。自分の気持ちも分からない軟弱者に育てた覚えはありませんよ」

 む、と妙乃は息を詰まらせました。

 成したいことを成そうとすることで、成すべき力を得る。

 それが、妙乃が母から教えられた武の真骨頂でした。

 李広将軍が虎の姿をした岩を矢で貫いた史実の如く。

 熊を打ち破った己が体験の如く。

 心身が一体となればこそ、実力は発揮出来、心身違えば指一つ動かせない。

「貴女の命は、何を想う? 誰を想う?」

 お母さんに心臓を指で射抜かれて、妙乃は自分の命と向き合った。

 そこにあるのは、たくさんの煌めく光の中で浮かぶ、隆文の柔らかな微笑みだった。

 ぽろりと。

 妙乃の目淵まぶちから雫が零れて、頬を伝った。

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