わだかまりの解消

 フィアとアリスは、自身のバッジから漏れ出てくるルクアたちの声に耳を傾けていた。白のドレスを身に纏った女性と赤いドレスを身に纏った女性、2人もまた一言も話さずにルクアたちの会話を聞いている。ルクアの声が聞こえた。


『ここから私たちが無事に脱出するには、元祖フィアの精神を叩き直して、ジャバウォックを倒すしかないってことだね。やっぱり、やるしかないんだね。……フィア、そっちは順調?』


フィアに代わり、アリスが言った。


「今、赤いドレスと白いドレスのお姉さまが目の前にいますわ。ここが火の海になるかもしれないということで、住人たちは、逃げていきましたわ」


その言葉に、トゥルーが答える。


『……その2人は、オリジンのハートの女王と、元祖フィアが成り変わったオリジナルの白の女王だ。2人とも、元祖フィアがそこに幽閉した』


白の女王と紹介された女性がトゥルーの声を聞き、とても嬉しそうな声で言う。


『トゥルー、ご無事だったのですね。ご機嫌麗しゅう』


「乙女モードに入るのはおよしなさい、首を跳ねるわよ!」


ハートの女王と紹介された女性が、高圧的に白の女王を見下ろす。しかし、白の女王は全く気にしていない。


「あら誰でも、友人の安否は気になりましてよ。貴女だって、友人や大切な旦那様と連絡がとれなくなったら困るでしょう?」


「むしろ大歓迎だわ。あんな男、いてもいなくても一緒よ」


「ご冗談を」


白の女王は言い、フィアたちに向き直ってにっこり笑って言った。


「白の女王、ホワイトです。こちらはこのワンダーランドを統べる最高の女王、ハートの女王様」


「心にも思っていないことを言わんでよろしい、ホワイト。ここに処刑人がいれば、喜んで首を跳ねさせるものを」


ハートの女王が鼻を鳴らして文句を言う。トゥルーは言った。


『その2人ごと、この先にある選定の丘に連れていくんだ。その2人がいないと、ヴォーパル・ソードは作れない』


『え、作るの!? 刺さってるとかじゃないの!?』

『……ルクア、他の物語の見すぎだ』


 通信機の向こうで、トゥルーとルクアの会話が聞こえる。白の女王が、通信機に声が入らないよう小声でフィアに尋ねる。


「トゥルーは無事に、飼い主さんに再会できたんですね」

「え?」

「彼の話し方で分かります。本当に、本当によかった」


 白の女王はとても嬉しそうに笑う。そして、ティアシオンに今度は向き直った。彼は、白の女王の方を見ながら黙っていた。どう声をかけたらいいのか、迷っている様子だった。


「……ティアシオン。助けに来てくれたのですね。来てくれると、思っていました」

「……遅くなってしまって、悪かった。本当はトゥルーが裏切ったときにすぐ助けに来るべきだった」

「……ティアシオン、あなたも本当は気づいているのでしょう? トゥルーは私たちを裏切ったのではない。あの時私たち全員が同じ動きをしていたのでは、戦力も情報も足りなくなってしまう。だから私は彼に、「嫌われ役」を頼んだのです」


 白の女王の言葉に、ティアシオンがはっと息をのんだのが分かった。


「彼だって、望んで私たちから離れようとしたのではないのです。あの時は、ああするほかなかった。全員が捕まることだってあり得たのです。でも彼が元祖フィアの側について、取り計らってくれたおかげであなたやランベイル、ラトゥールはある程度自由に行動することができたのですよ」


 フィアは、無言でティアシオンに自分の通信機を差し出した。ティアシオンもまた無言で通信機を受け取ると、呼びかける。


「トゥルー」

『……なんだ』


 トゥルーの声に、ティアシオンが絞り出すような声で言う。


「……すまなかった。オレは、お前のこと何も分かってなかった」


 通信機は、しばらく沈黙した。しばらくして、通信機はトゥルーの声を拾う。


『……謝る必要はない。お前はお前でホワイトのことを考えて、悩んだんだろう? だったら、それだけで十分だ』


 トゥルーの声で、俯き加減だったティアシオンの顔が上がる。


『ティアシオンくん、ちゃんとごめんなさいできたね、偉い偉い。ちなみに声には出てないけどね、トゥルーも嬉しそうだよ』


『……ルクア、頼むから余計なことは言うな』


 ルクアの言葉に焦るトゥルーの声を聞き、ティアシオンは心底安心した様子である。その様子を見て、フィアもまた嬉しくなった。






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