熱中すること
少女たち三人は、まだまだ落下し続けている。たくさんの物が宙に浮いていた。タンス、椅子、本棚……、それらをうまくよけながら、まだまだ三人の少女を乗せたベッドは落ちていく。
ルクアは通り過ぎていく本棚を眺めては数冊本を抜き取り、そして自分のベッドの上に乗せる。ベッドの上に置くと、なぜかどんな物でも再び浮かび上がることなく、おとなしくベッドに居座っている。ルクアのベッドが本だらけになるのを見て、フィアが恐る恐る声をかける。
「……あの、ルクアさん? 誰のものか分からないものをそんなに手あたり次第持ち帰ったら、あまりよくない気がします……」
フィアの言葉に、ルクアは少し驚いた顔をする。ルクアは、本棚の方を指さして言う。
「本棚のカーテンレールのとこ、見てみて」
そう言われてフィアは、本棚の上段についているカーテンレールを見つめる。カーテンに文字が書いてあり、
『私たちを読んで』
とあった。
「『不思議の国のアリス』の主人公アリスは、私を飲んでって書いたラベルの貼ってある瓶の中身飲み干したりしてたから、多分これもそんな感じだと思う。だからさ、読んであげたほうがいいんじゃないかなって」
うちにある本みたいに部屋で埃かぶってるよりも、誰かに呼んでもらえる方がきっと幸せだもん。そう呟くように付け加えながらルクアが言う。
「アリスはファッション雑誌ばっかりを集めて読んでるみたいだよ」
ルクアの言葉につられてフィアがアリスの方を振り返ると、彼女のベッドにはいつのまにか、ファッション雑誌らしき雑誌本が積み上げられていた。
雑誌本に目を通しているアリスの表情は真剣そのもので、声をかけるのが憚られるほどだ。
「……。きっと、ファッションにすごく興味があるんだろうね」
ルクアがフィアの視線の先を見て、そっと言う。それから彼女は読み進めているらしい本に、再び視線を落とした。
フィアは少し考え込む。はたして自分には、そんな熱中できるような事柄があっただろうか、と。
フィアは、ルクアに尋ねる。
「ルクアさんには、アリスさんのファッション雑誌のように、熱中できる何かはありますか?」
フィアの問いにルクアは本に視線を落としたまま、即座に答える。
「私にとってはきっと、小説を読むこと書くことがそれに当てはまるんだろうね。誰でもきっと、熱中できることってあると思うんだ」
「わたしは……、ないかもしれないです」
フィアの言葉に、ルクアが本から顔を上げた。きょとんとした顔をしている。彼女は少し難しい顔をして、言葉を選びながらゆっくりと言った。
「うーんと……。たぶんね、それはすぐ見つかる人、そうでない人さまざまなんだと思う。見つかったと思っても、年を重ねると別のものに変わる人もいるだろうし、そもそも熱中できるものを見つけたと思ったら、実はとりあえず熱中するものが欲しくて無理に見つけただけだったりもするかもしれない。だから今はなくても、いつかは見つかるよ。きっと。だから急がなくていいと思う」
それを聞いてフィアは、ふとルクアに聞いてみたかった質問をぶつけてみた。
「あの、ルクアさん……。ルクアさんって、何歳ですか」
女性に年齢を聞くのはタブーだよと笑いながら、ルクアは答える。
「えっとね……26」
フィアは絶句した。ルクアは笑いながら言う。
「おかしいよね。まるで高校生の誰かの姿に乗り移ったみたい」
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