鼓動を聞け

夏切きはる

1

「好きな人、なぁ……」

好きな人に意を決して告白してから1週間と少し。答えは即答で駄目だった。

1週間経ったところで心の傷は少しも癒されない。

「告白するだけでも十分すごいと思うけどなぁ」

カラン、と氷とグラスが擦れる音。喫茶店の冷房から流れる涼しい風。コーヒーがなみなみと注がれたグラスとストロー。窓から見える青い空……俺、宍戸涼実の夏は終わったというのに俺以外夏はまだまだこれかららしい。

「私は何も言えてないから」

聞き慣れた声の持ち主、淡島立夏はテーブルに突っ伏した俺に声をかける。今はどんなことを言われようと立ち直れないだろう。

「でもさぁー?駄目やから同じや、いやそれ以下かも」

軽快なBGMとは逆ににどんどん心は沈んでいく。このままテーブルと一体化するんじゃないか。いや、その方が楽かもしれない。

「あぁ、机と一体化してぇ……」

冷たいテーブルは俺の体温を受けて生ぬるくなる。

「みんな彼女とかと祭りとか行ってんねやろ、羨ましい」

周りの奴らは口を揃えて彼女が、デートが、などと浮ついたことを口にする。

「スズミは彼女が欲しいん?誰でもええわけちゃうやろ」

「ん〜……もうこの際誰でも」

そんなことは全くない。あの子がいいからヘタレながらに告白したし、周囲にポジティブ王と言われる俺がこんなにも落ち込んでいるのだから。でも他の子と付き合ってるうちに傷は癒えていくかもしれない、どこかでそんな思いがあったのは否定できない。

「……じゃあさ、私と付き合ってみる?」

「へ?」

思いもしない一言だった。驚いて顔を上げると彼女はテーブルを見つめる。リッカは目をそらし唇をキュッと結んで頬が紅に染まっている。紛れもなく彼女の言葉なのだと確信させるには十分だった。

妙に凍りついた空気を溶かそうと考えるも頭が回らない。クーラーで十分涼しいのに汗が止まらない。とりあえず返事を返さなきゃ、傷つけないような返事を……。

「いや、リッカはねぇ……」

「そやんな、冗談に決まっとるやん。ちょっとは元気でた?」

どう答えるべきかわからなかった。だからといってひどい答えを返すつもりはなかったが頭が回らなかった。彼女のことは別に嫌いでも好きでもない。そんなに広くない島の性別を気にせず絡む幼馴染。そんなふうに思っていたから想われてるなんて全く気付かなかった俺には唐突すぎた。

なるべく明るく茶化すように、誤魔化すように返した彼女の表情は真反対だった。

「ごめん、用事思い出したし帰るわな」

パクパクと口を動かすも言葉が出てこない俺をよそに、荷物を纏めて伝票を掴んで足早にレジに向かう。追わなきゃ、そう思っているのに俺は何故か金縛りを食らったように動けなかった。

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