第41話 火種が大火事

春さんが退院した時に

なんとなく、なんとかなった、と思っていた私達だったが、

1番、なんとかなっていなかったのは岡田君だった。


黙認していた妻が、とうとう爆発したのだ。

岡田君は、所謂『遊び人』で話がうまく優しい。

今までも散々浮気を繰り返しては遊び惚けていた。

キチンと働き、稼いでいて、遊ぶ。

そして家に帰れば妻に優しい。

だから、浮気がなんとなーく黙認されていたんだろう。


春さんが怪我をして、岡田君は妻に事情を説明したらしい。

自分と口論になり、怪我をさせてしまった事。

自力で運転するのは難しく、同居してる女に免許はない事。

怪我をさせてしまった人の仕事を手伝わなければならない事。

自分の職場も、今、忙しい事。


当然、妻は激怒したが、何とか言いくるめて

岡田君は馬車馬のように働いていた。


退院から2か月で、春さんは仕事に復帰した。

7月中旬、夏休みが始まる時期で、

岡田君の職場は、温泉宿の厨房で料理長だったので

まさに繁忙期に入った。

春さんが仕事に復帰してからも、岡田君は、仕事の空き時間があれば

家に帰らず、春さんの家にばかり来ていた。

繁忙期に岡田君が職場に泊まる事は珍しい事ではないので

妻も、何も言わなかった・・・のかどうかは判らないが。


秋になり繁忙期が過ぎても、岡田君は、あまり家に帰らなかった。


私と春さんの仕事が終わり、店で飲んでいた岡田君と

当たり前のように3人で、春さんの家に帰って一息つこうか・・・


と、思った時

狂ったように家のチャイムが鳴り響き

猛烈にドアをドンドンと叩く音がする。

『こわー』っと思ったが、春さんを出すのもメンドウ事になりそうだったので

仕方なく私が、チェーンをかけドアを開けた。

瞬間、ドアをバーンと引っ張られた・・・チェーンしといて良かった。

案の定、岡田君の妻だった。

『オマエか!』と言われ『どちら様?』と返したが

『家の人を出せ、車が止まってるから判ってるんだから!』

『オマエが春か!』と。

とにかく夜中で近所迷惑なるからと岡田君は帰って行った。


その後も、岡田君や春さんが居る時や

2人ともいない時も、この襲撃を受けることになった。

それは、春さんの家だけではなく、岡田君の職場まで被害が出たそうで。

結果、岡田君は職を失った。

妻は、今までは黙っていたのに、なぜ今回だけはこんな事になったのか

岡田君にも見当がつかないようで、その被害が

岡田君の両親にまで知られる事になる。


岡田君、妻、両親の4人で何度も話し合いがなされ、

結果、岡田君は、春さんとも妻とも別れ名古屋に移った。

春さんは岡田君に、一緒に来てくれと言われたそうだが断ったらしい。

その1件で、春さんの携帯番号が、岡田君の妻や両親に知られ

春さんは携帯を変えてしまったので、岡田君とも、それっきりになった。

その後、岡田君がどうなったのかは、詳しくは知らないが

雅ママから『名古屋に行ってから、消息不明らしい』と聞いた。


春さんの携帯番号が変わったからなのか、店に何度も電話がきて

『春さんを出せ』と言われた。

1度も電話はつながなかったが、春さんが店を辞めた後も

電話がかかって来ていたので、岡田君は失踪したままなのだろう。

と、いうより。

岡田君本人より、両親や妻の春さんへの執着が怖いと思った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る