第35話 ガリバー大国

元々は、豪雪地帯の冬がイヤで、3か月という契約で白馬に働き来ていたが、

特に帰る当てもなかった私は、

なんとなく、このままずっと春さんと一緒に働いて行くものだと思っていた。

思っていたハズだったが、なぜか山梨へと移り住むことになった。

ちょうど、冬の繁忙期が始まる頃だった。


離婚話は纏まっていたが、まだ離婚届を提出しておらず、

高橋君とは完全に切れていたわけではなかったが、

すでに、私には新しい男ができていた。

この男、アキラ君は、嫉妬深く水商売を嫌っていた。

実際、私は、アキラ君から、一切信用されていなかった。

アキラ君が、山梨で仕事を見つけ『一緒に来て欲しい』というので

なんとなく山梨で暮らすことになった。


山梨で、車の免許のない私は、当たり前のように孤立していった。

水商売をすることはダメだと言われ、仕事をする気にもなれず

1日中、家の中にいた。

『料理や家事全般できない』と言った私に

始めのうち、アキラ君は満足そう甲斐甲斐しく尽くしてくれたが

家に居るのが当たり前な状態が続くと、

飽きたのか慣れたのか、アキラ君は夜な夜な遊び歩くようになった。


私は、私で、せっかくセコセコ返していた借金も元に戻ってしまい

いい加減、何もしない生活に退屈し始めた頃だった。

そんな時に、心配して、よく連絡をしてくれていた春さんから

『白馬に帰って来てくれないか?』と言われた。

そろそろ冬の繁忙期が終わり、冬のシーズンバイトが帰ってしまう時期だった。

シーズン明けからのバイトがまだ見つかっておらず、

このままでは1人になってしまう、と。

そろそろ、他の所に移動するには良い頃合いかな?と思っていたので

春さんに、『近日中に帰る』と伝えた。


アキラ君は、私を山梨に連れて来た人とは別人か?

と思うほど、あっさりと白馬へ戻る事を了承した。

お別れするのかな?とも思ったが、そうではないらしかった。


そして、取り立てなにもない山梨生活は5か月で幕を閉じた。


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