第32話 日々の暮らし

私が、白馬に行く直前に、ママの『雅さん』は自分で部屋を借り暮らしていた。

寮と言う名のペンションには、私以外、先輩にあたる『春さん』と

マスターと、マスターの娘&おばぁが住んでいた。

マスター、マスター娘&おばぁは、『自分の家』だが、

私と春さんにとっては『寮』なのだ。


白馬は、完全に車社会で、免許のない私には

全く身動きの取れない所であった。

店で使用を許可されている車が1台あったが、

雅さんは、まだ車を持ってきておらず

営業前後に春さんが送り迎えするか、

雅さんが乗って帰ってしまうという感じだった。


雅さんは『東京でも売れっ子だっただろうなぁ』という感じの人で

実際に、雇われママ的な事は、初めてではないらしかった。

その奔放さは見習うべき点が多々あるが、車に乗って帰られてしまうと

私と、春さんは、何もする事がなかった。

実際、乗って帰ってしまう事が多かった。

私は、東京での生活に疲れ果てていたし、

静かで仕事以外何もしなくていいという生活を満喫していた上に、

『メンドウまでしてゴハン食べたいとは思わない』主義なので

始めの内は何も思わなかった。


が、段ボール1箱の仕事道具とバック1つで来た私に

仕事以外に何もする気がなさそうな私に、

春さんは思う所があったのだと思う。

色んな質問をしてくれて、話をしてくれた。

今でこそ判るが、春さんは、私に質問し、

その答えを真面目に、時には笑いながら聞き

時には共感し、自分の経験を教えてくれた。


そして、春さんは水商売未経験という事が判った。

雅さんに『お客さん呼んで、営業して』と言われても

何をすればいいのか、さっぱり判らず過ごしてきたことを知った。

春さんは、とてもお店に馴染んでいるように見えていたので

ビックリしたが、さっそく2人で『営業』することにした。

寝ている場合ではない、と思った。

何も知らず、あれだけの接客ができるのは天性か、はたまた・・・

とにかく、『車がない』『ゴハンが食べられない』と

営業方針を決め、11時を過ぎたら代わりばんこに

営業する事にした。



冬のシーズン以外は、ノンビリ仕事をしている人も多かったので

そこは便利だった。

1、車がないから買い物にもゴハンも食べれない、だから連れて行って

2、忙しそうなら、すぐに引く

3、かならず『2人』で行く

4、そこからの同伴はしない

を、徹底した。

面白いぐらいに釣れた。


1、ゴハンや買い物に連れて行ってもらえるのはラッキーだし、

そこから店に来ることを強制しないので営業感は薄れる。

2、『忙しい時にゴメン』とすぐ切る事により、後日来店もしくは

食事のお誘いが掛かる。

3、昼間は、必ず『2人』は一緒にいるから、しつこく口説かれない

4、あくまで『営業』ではなく『個人的』なお願い

なかなかいい筋書きだった。

オモシロイように客足も伸びた。

実際は30分も歩けばコンビニもあったし

17時を過ぎれば開店するレストランも近くにあった。

なので、私が『今日は何もしたくない』と我儘を言っても

春さんは、散歩へ誘ったり、1人で行ったり

2人で食事をした日も多かった。


が、メンドウな日があった。

それは、春さんが雅ママを送り迎えしなければいけない日。


この頃(まだ入店2週間)になると、

もうマスター娘は接客はせず厨房からは来てくれなくなっていた。

本職は調理師だったらしく接客はイヤだったらしい。

借金マスターは、雅さんに任せっきりで、ほぼ不在だった。

春さんが雅ママを迎えに行くと、開店準備は私1人だった。

『キャバクラ』と謳いながら、女1人に開店させ1人営業させる。

そんな店だった。

初見のお客様が何人来ようが、ママと春さんが来るまで1人だ。

それが、たとえ開店から2時間過ぎていたとしてもだ。






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