第4話 脳内劇場(妄想ごっこ)

父が、単身赴任と言う名の別居で、家に帰って来なくなると、

母は、『家族なんだから協力しないと』と頻繁に口にするようになった。

父が家に居ないのに、その言葉は、何かの呪いの呪文かと思うぐらい

私を、暗く重い気持ちにした。


父は、家族ではないのかな?

父に似ているから、私には呪いに感じるのかな?


父が帰って来ないから、母の言い付けを守らなければいけない。

母が働き始めたから、家事を手伝わなければいけない。

母の帰りが遅くなる日は、ゴハンを作らなければならない。

日曜日の朝も、食事の支度をしなければならない。


要求は、どんどんエスカレートし、呪文を唱える回数も増えた。

毎日、米を研ぎ、バス停まで母を迎えに行った。


ちょうど同じタイミングで、学校に馴染めなくなっていた私は、

母には都合が良かったのかもしれない。

毎日、米を研ぎ、バス停まで母を迎えに行った。

毎週日曜日の朝は、コーヒーを用意して、

目玉焼きとトーストを焼いた。


そして、それが日常になっていった。

『家族なんだから協力しないと』

その呪いから解放されるのは、短い時間しかなかったが

少しづつ私は壊れ始めていたのかもしれない。


その頃の私の遊びは、専ら『お葬式ごっこ』だった。

鳥やネズミなどの死骸を見つけては、それらを埋葬するのだ。

墓を作り、花を供え。

死骸が見つからない日は、虫を捕まえて埋葬した。


母の要求がエスカレートして、家の用事が増えてからは

毎日、眠りに着く前に、『だれか』の死を考え

頭の中で埋葬し続けた。


嫌な事が起こると、『だれか』を埋葬し

一緒に嫌な気持ちを葬っていく。

そんな妄想を繰り返し、とりあえず日々を、やり過ごしていた。


その脳内劇場の主役に自分がなる日は、

そう遠くない時期に訪れていた。

コトキレル様を、色々と妄想し、夢見る日々が続いた。


都合のいい様に動いている間、

母は私の異変に気付く事はなかったし、

異変があったのか、元からの資質なのか、

私は、どんどん周りと協調することができなくなっていった。


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