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病室は静まり返っていた。
ジャネットは一呼吸置くと各メンバーの表情を見渡してから言葉を続けた。
「その日以降、私はルーダを追い続けている。フラヴィと会った時に、壊し屋として働いていればそのうちルーダに会えると思った。会ってこの手でルーダを破壊できるって。でもまさか、ルーダがファクトリーと繋がっていたなんて……」
「逆かもしれないわ」
リュシーが声を上げた。
「お話の中で、ジャネットさんのお父上は特別な整備士にルーダを見てもらったと言っていたよね。その特別な整備士がおそらくルーファスの事だと思う。ルーダがルーファスの名前を口にした事も、裏付けされていると思うわ」
「となるとなんだ? ルーファスはそんな昔から裏で活動していたってのか?」
アレットの疑問も最もだ。
ファクトリーが活動を始めたのは二年ほど前からであり、ジャネットが小学生の時といえば十年以上前の話だ。その時から既にルーファスは裏でアンドロイドの違法改造を繰り返していた可能性がある。
「となると、かなり綿密な計画を立てていた可能性が高いな」
フラヴィがそう呟いた時だった。急遽リュシーは通話の通知を受け、それに応答すると険しい表情でテレビの電源をつけた。
そこには、中年ぐらいの白髪の男が立っている。背後には鎖に繋がれた男女が二人並んでいる。
何事かと各々がリュシーを見ると彼女はこう言った。
「テロ組織ファクトリーの犯行声明よ」
ということは、今テレビの中心に写っている人物こそ、ファクトリーの創設者であるルーファスに違いなかった。
彼は口の端をあげると、落ち窪んだ目を挑発的に光らせながら、口を開いた。
「自由な人生を享受している人類の皆様へ。はじめまして、私がファクトリーの創設者、ルーファスです」
紳士的に恭しく礼をするルーファスだが、その行動に反して彼からは危険な香りを感じる。
「まずは先刻起こった居住地ファーストの各所を占拠した武装グループだが、あれはファクトリー所属のアンドロイドによる犯行だ。彼らの目的である人間への無差別攻撃は私が命令した事であり、概ねその目的は達成されたと考えている。
なぜそのような命令をしたのか。諸君が私に尋ねたいのはそれであろう。しからばお答えしようと思う。
私の目的は、アンドロイドのための世界の創造である。そしてその世界に人類は必要ない」
「……なんて事を」
リュシーが呟く。
ファクトリーが無差別に人に攻撃をした理由が明らかになったが、それにしては過激な方法であったと誰もが思うだろう。
「実行部隊は実によく働いてくれた。お陰で我々は理想の世界へ近づく事に成功したのだから。しかしまだ足りない。アンドロイドのための世界に人類は一人も生かしてはいけないのだ。
故に、私はここで人類の皆様へ向けてヴォレヴィルの真実をお見せしようと思う。これから行われるショーを見た後でもまだ我らを否定するのであれば、我々は更なる行動に出る。しかし考えを改め、我らの存在を受け入れるというのであれば、アンドロイドのための世界で生存する許可を与えてもいい」
ふざけていると、この放送を見ている誰もが思っているだろう。だがルーファスには、そういう人を黙らせる作戦がある。だからこそ、ここまで強気な発言をしているのだ。
ルーファスは背後を見せつけるように大きく手を広げた。
「先程から気になっていただろうからご覧入れよう。彼らはアンドロイドだ」
「違う! 俺たちは人間だ!」
ルーファスの言葉にかぶせるように、鎖に繋がれた一人が声を荒げる。
カメラはその男をアップにし、ルーファスが近づき言葉をかけた。
「可哀想に。記憶を書き換えられ、自分を人間だと思い込んでいるんだな」
「ふざけんな。俺は正真正銘の人間だ」
「ご覧になっている諸君。彼は自身を人間だと思い込んでいるアンドロイドだ。しかしこの哀れなアンドロイドに罪はない。なぜなら彼は政府が作り上げた、特殊なアンドロイドだからだ」
「コイツ……何言ってやがるんだ」
アレットの感想は最もだろう。普通ならルーファスの事は気の触れた異常者にしか見えない。誰もがそう思っているはずだった。
ルーファスは一旦テレビか画面から姿を消すと、次に姿を表した時には物騒な物を持っていた。それは気を伐採するための道具であり、チェーンソーだ。
エンジンではなく電力によって稼働するチェーンソーのスイッチを入れると、ギザギザの歯が高速回転し始める。
「では改めて問おう。君はアンドロイドか?」
問われた男はルーファスを睨みつけながらこう答えた」
「俺は人間だ」
「そうか。ではその言葉が真実かこれから証明しよう」
ルーファスはチェーンソーを大きく振りかぶると、男の首めがけて振り下ろした。
鎖に繋がれた隣の女性が悲鳴を上げる。
画面にはチェーンソーに肉を刻まれる男が叫んでいる様子がアップで映し出される。しかし、映像を見ているジャネットたちはすぐに違和感に気づいた。
本来なら飛び散るはずの血がないのだ。
ガガガガと無理やり鉄を削るような音が響き、裂かれた首から飛び散るのは鉄製の歯車や細かな部品であり、ルーファスはさらにチェーンソーに力を込めて振り切った。
男の頭が床を転がり、テレビ画面には切り裂かれたあとの首の断面を写した。ルーファスが断面を手で指し示す。
そこには、機械部品とコードが詰まったアンドロイドの断面が写っていた。
「ご覧いただけただろうか。これが真実だ。彼はアンドロイドでありながら自身を人だと思い込んでいた、政府が製造した特殊なアンドロイドだったのだ!」
その時ヴォレヴィル全土に衝撃が走った。
首を切断される前までの男はまさしく人間そのものだった。外見だけでは決してわかることがないのだ。例えアンドロイドが自身を偽ろうとも、アンドロイドが自身を人間だと思い込む事はなかった。それは決してありえない事なのだ。あってはならない事だったのだ。
だがそれでも、テレビの向こう側でルーファスが実証してしまった。自身を人間だと思い込むアンドロイドが存在すると。
誰もが唖然とするなか、ルーファスが隣で震える女の元へ行く。
「さあ……今の光景を見ても、君はまだ自分が人であると言い切れるかな?」
女は何も答えられなかった。答えられるわけがなかった。
誰もが自身の出生を疑う事がないように、女もまた、自身が人間であると思っているから。
だが自分は人間であると訴え続けた男がアンドロイドだったように、女も本当に人間であるかわからなくなってしまった。
これから殺されるかもしれないのだが、それ以上に女は、自身の正体を思い震えている。
「教えてくれ。君は人間か?」
「あ……、いや……、うそ」
すっかり怯えきってしまった女は、ルーファスの問いかけに答える事が出来ない。
「そうか、混乱しているんだね。だがアンドロイドの良いところは事実を正確に認識し、受け入れるスピードが早い事だ。君にもすぐに真実を見せてあげよう」
唸りを上げるチェーンソーが、容赦なく女の右肩を切断し始めた。
刃が女の体にどんどん食い込んでいくが、女は悲鳴をあげず、ただ悲痛な面持ちでじっと切断されていく右腕を見つめ続けている。
テレビを見ている誰もが息を飲んでその光景を見つめる。
やがてチェーンソーが女の右腕が切断した。そして先程と同じ光景が映し出される。
飛び散った機械部品、コード、そして歯車。女は切断された自身の右腕を目を見開いて見つめる。その腕は間違いなく人間の腕ではなかった。
「さあ、どうだい? これで受け入れられただろう?」
ルーファスは切断した腕を掴み、その腕を女に見せながらニヤニヤと笑う。
「君はアンドロイドだ。そしてそれを自分で認識していなかった。なぜなら君もまた、政府に作られたアンドロイドだからだ」
「あ……ああ……ああああ!!」
事実を理解し始めた女は、いやアンドロイドは、わなわなと口を震わせながら叫び声をあげた。
その悲鳴を聞きながらルーファスは満足げに笑っている。
「そんな……」
テレビを見ているジャネットたちも驚きを禁じえない。
いま見ているこの映像が正しいのだとすれば、これまですれ違ってきた人々の中にアンドロイドが紛れ込んでいた可能性があるという事だ。そして重要なのは、その事実をテロ組織ファクトリーの創設者であるルーファスが知っていたという事だ。
知らず知らずの内に、ジャネットは病室の外へ目を向ける。
今あわただしく行き交っている人々の中に、もしかしたらアンドロイドが紛れているかもしれない。つい先ほどまで人々を皆殺しにしたアンドロイドの仲間が、紛れている可能性が……。
「さあ人間諸君。いま隣人の顔をよく見てみるといい。その人は君にとってどのような存在かな? 家族、親戚、友人、恋人、もしくは見ず知らずの赤の他人かもしれない。ではその人が本当に人間であると、どうやって証明する? ある日突然、理由もなく銃を向けられ、殺されない証拠はどこにある?」
「くだらねぇ!」
とっさにアレットが立ち上がって叫んだ。そうだ、これはあまりにもくだらない論理だ。正常な判断を下せるなら誰もがそう考えるであろう。
しかし、ルーファスは見せてしまったのだ。人間のフリをしているアンドロイドが存在することを。
──混乱が起きる。
「うるせぇ! 俺に触るんじゃねぇ!」
男性の叫びと共に物が崩れ落ちる音が廊下から響く。何事かと咄嗟に様子を見に行くリュシーに続いてジャネットとアレットも廊下を見た。
そこには血まみれになりながらも刃物を振り回して暴れている男がいた。刃物は血に染まってなく、男の血は襲撃事件の時に負った自身の怪我のせいだとわかる。
「今すぐ手当しなければ危険です!」
「黙れ! そう言って俺を安心させて殺すつもりだろ! 娘を殺したときのように!!」
近くにいた看護婦の説得にも男は全く耳を貸すつもりはないようだ。
この男はファクトリーの襲撃時に娘を撃ち殺されていた。そのためアンドロイドへの信用がない状態でルーファスの演説を見てしまったのだ。今では誰も彼もがアンドロイドに見えているのだろう。
だがひとしきり叫び続けたせいか、男はふらふらとよろめいた後に後ろへ倒れてしまった。血を流しすぎたことによる貧血に思われる。
「手を貸して! 今のうちに運ぶよ!」
と、看護婦たちが一斉に男を抱えて走り去っていった。自分がアンドロイドだと言われても顔色1つ変えずに職務を全うする姿は、誰が見てもプロだと実感できる。
ひとまず現場が落ち着きを見せたためジャネット達が病室へと戻る。
「良かった。どうなる事かと思ったけど、一安心ね」
「目が覚めればまた暴れ出すかもしれねぇぜ?」
「でも治療して回復するのなら、それに越したことはないから」
男の心配をするリュシーだが、ジャネット別の件を心配していた。それは先程のような光景が散見される可能性に危機感を感じているのだ。
猜疑心は底なし沼だ。一度足を踏み入れると、疑念が晴れるまでどんどん深みにハマってしまう。たとえ相手が信用に足る人物だとしても、たった一度の疑いで関係が崩壊することも珍しくはない。
ルーファスの演説は、その疑いのきっかけを人々に植え付けたのだ。もしそれが演説の目的だったのなら、演説はある程度成功したと言えるだろう。
今後、世間のアンドロイドに対する当たりは厳しくなる一方だろう。アンドロイド愛護団体内部でも否定派に流れる人もいるはずだ。それだけではなく自分がアンドロイドではない事を確認するために自傷行為を行う人も現れるかもしれない。
病室に戻るとフラヴィが険しい表情でジャネット達を見ていた。おそらく、彼女もジャネットと同様の危機感を抱いているのだろう。いや、ジャネットが想像しているより先まで想定しているかもしれない。
気づけばルーファスの演説は終わり、テレビには今の犯行声明に関するトークが繰り広げられていた。
「様子はどうだった?」
「とりあえず大丈夫だった。錯乱してた男も倒れて意識を失ったから、すぐに連れていかれたし」
「そうか……。だが一歩間違えばだれかを攻撃していた可能性もあるな」
「うん。これから先、そういう事件が増えなければいいけど……」
「それは警備隊が動くから大丈夫よ」
二人の会話にリュシーが割り込むが、彼女の発言は今はとても頼りないと感じてしまう。
フラヴィが変わらず険しい表情でリュシーを見て言う。
「それは結構な事だが、警備隊は具体的に何をするって言うんだ? 先程みたいないさかいが、このヴォレヴィル全土で頻発すれば間違いなく人手が足りなくなる。しかも住民達がアンドロイドの破棄を訴えて暴動を起こしたとして見ろ。警備隊が行うのはヴォレヴィルの治安維持だから、デモを鎮圧するために駆り出される。そうなれば行きつく先は戦争だ」
「それは行き過ぎた考えです。いうなればフラヴィさんの被害妄想とも取れますよ! 警備隊を馬鹿にしすぎです!」
珍しくリュシーが激怒している。普段温厚な彼女がここまで言うのは珍しい事だ。しかし、フラヴィも引く気はない。
「お前がそう思うのはいいが、所詮お前は警備隊という大きな組織の歯車として組み込まれているに過ぎない。警備隊は命令が下れば住民にとって天使にも悪魔にもなりえる。その鍵を握っているのはアーデンベルグだ」
「警備隊総督が、市民に対する鎮圧行動を命令するはずがありません」
「……だといいがな」
フラヴィの返事が気に入らなかったのかリュシーがさらに食って掛かろうとしたところで、ジャネットが二人の間に割り込んだ。
「その議論はまた今度にしよう。ファクトリーの件も重要だけど、私達にはやるべき事があったはずでしょ」
「そうだぜ。アタシたちは大切な仲間を奴らから助け出さねぇと」
ジャネットの言葉にアレットが大きく頷く。
そう、たとえファクトリーが何をしようがジャネット達がやる事は決まっている。ファクトリーに捕まったミレイユを救出する事だ。
「それに、ミレイユを追っていればファクトリーにたどり着く事になる。ついでに奴らを潰す口実にもなるでしょ」
「潰す……か。確かにそうだな。あれほど大々的に行動を起こしたという事は、間違いなく奴らはもっと大きなテロ行為を仕掛けてくるはずだ。私達の行動はそれを防ぐ事ができるかもしれないからな」
壊し屋としての次の目的は決まっていた。ミレイユの奪還とファクトリーという組織の破壊だ。
「ミレイユとは誰の事ですか? お知り合いの方です?」
「あ……」
つい名前を口に出してしまったが、そもそもフラヴィたちはミレイユの存在を警備隊に隠していたのであった。
しまったという顔をしたジャネットを見てリュシーがさらに不審がる。
「ああ、私の姪のことだ。たまたま事務所に遊びに来てたんだが、ファクトリーの襲撃時に人質として連れ去られてしまったんだ」
「そんな……! それなら私たち警備隊もお力をお貸しします!」
「いや、私たちだけ特別扱いしてもらう訳にはいかないだろう。私たちよりも酷い状況の人も大勢いるはずだ」
「もちろんその方々への支援も惜しみません。ですからフラヴィさんへ支援を怠るわけにもいかないです」
「それは個人の力ではどうしようも出来ない状況の人への支援だろ。心配せずとも、私たちは自分でなんとか出来る。その力を持ってるんだ」
言ってからリュシーに力強い眼差しが注がれる。フラヴィ、ジャネット、アレット。この三名がどれほどの力を持っているか、長年の付き合いであるリュシーはよく知っている。荒事に関しては警備隊よりも慣れている可能性もある。
さらに三人はお互いを信頼しているという絆の力もある。なら、無理に警備隊という後ろ盾を加えたら上手く機能しなくなるかもしれない。
「わかりました……。ですが支援が必要な場合は遠慮せず仰ってください。警備隊はいつでも味方しますから!」
リュシーの言葉に頷く三人。
「よし、そうと決まればまずは退院しなきゃな。ちょっくらそこら辺の看護師でも呼んで退院させてもらうか」
よっこらしょ、っとおじさんの様な掛け声とともにフラヴィがベッドから立ち上がろうとするためジャネットとアレットが慌ててフラヴィを止めに入る。
「いやいや、そもそもまともに歩くことすら出来ないでしょ! まだ休んでた方がいいって!」
「大丈夫だ。というか、そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろ」
と言いつつも、フラヴィはハンモックから足を外す際に苦痛で顔を歪めていた。やはり治療を受けたばかりですぐに退院するのは無理があるだろう。
「ミレイユはアタシ達に任せろ。てか、姉御は病室からでも支援は出来るだろ。とりあえず普通に歩けるようになるまでは休んでろよ」
「アレットにまで気遣われるとはな……。私はそんなに重症患者に見えるか?」
「ぶっちゃけ見える。今無理して症状を悪化させられたら困るぜ」
「うん。だからさっさと治して。ミレイユが戻ってきた時にフラヴィがそんな姿だったら、あの子は悲しむでしょ」
フラヴィは目を見開いた。ジャネットの口から、ミレイユが悲しむという言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
彼女の過去からわかる通り、ジャネットはアンドロイドを憎んでいる。しかし同じアンドロイドであるミレイユを人間視した発言をするとは到底及ばなかったのだ。
少しずつ、ジャネットの中でアンドロイドに対する意識が変化しているとフラヴィは思い、なぜか笑みがこぼれた。
「なに笑ってるの?」
「いや、なんでもない。お前たちの言う通りだな。しばらくはここで安静にさせてもらおう。だがお前たちだけでどうするんだ? ミレイユがどこへ行ったか分からないだろ」
フラヴィの言葉はもっともだ。というより、ミレイユ探しをするにしろファクトリーの居場所を探るより他に方法はないのだ。ほぼ情報なしの状態からファクトリーを見つけ出すのは困難だろう。
そこで、今まで黙っていたリュシーが挙手した。
「それなら警備隊が情報提供しましょう。まだ公表されていませんが、警備隊は本格的にファクトリー掃討作戦を計画しています。その中にはヴォレヴィル市民から得た情報などを頼りにファクトリーの居場所を割り出す予定です」
「サンキュー! さすがリュシーだぜ頼りになるぜ!」
しかしその情報が利用できるかは別だが……、とはジャネットも口には出さなかった。その程度でファクトリーの居場所が割り出せるのなら、これまで尻尾すら掴めなかった理由にならない。
すると突然、リュシーのリングにメッセージ着信の通知音がなった。
「上司から全警備隊は一度本部へ帰投するよう命令が下りました。すみませんが、私はもういかせてもらいますね」
「ああ、ここまでありがとうなリュシー。お陰で助かった」
「いいえ、当然のことをしたまでです。じゃあアレットとジャネットも、今日中かわからないけどまた連絡するから、それまで休んでてね」
「リュシーこそ疲れてるだろうからゆっくり休めよ」
「うん。あと本当に助かった」
「いいえこちらこそ。そういえば事務所が吹き飛んだって聞いたけど、寝泊まりする宿はあるの?」
リュシーの疑問にフラヴィが答える。
「それなら問題ない。一階部分はボロボロだが建物が崩壊したわけじゃないんだ。むしろ二階は無傷だぞ。二人はいつも通り自分の部屋に泊まれる」
「でも、あそこはファクトリーに場所が割れているのでは……」
再び襲撃を受ける危険性を危惧したリュシーだが、フラヴィは首を振った。
「いや、奴らが再び事務所を襲うことはないだろう」
「そうなんですか……?」
「ああ、とにかく心配は無用だ。それよりもリュシーは早くいかないとだろ」
「そうでした! ではすみませんが、お先に失礼します!」
リュシーは慌ただしく病室から出て行った。
リュシーがいなくなることで一旦の落ち着きを見せた病室で、最初に口を開いたのはジャネットだった。
「ファクトリーの居場所か……」
「奴らも馬鹿じゃねぇ。多分、わからないように隠れてるはずだぜ」
「いや、案外そうでもないかもしれないぞ」
フラヴィがニヤつくと同時にリングを操作し始めると、ジャネットとアレットのリングに通知が来る。
そこには廃棄区画近くの位置情報が表示されていた。
「これは?」
ジャネットが尋ねる。
「明日、そこで待ち合わせをしている奴がいる。代わりに行ってきてくれないか?」
「誰が待ってんだよ」
「心配するな。お前たちも知ってる奴だよ」
「……?」
疑問に思う二人を前にフラヴィはリラックスした表情で目を閉じてしまった。やはり、思った以上に疲れが溜まっていたのだろう。
「とにかく、明日はそこへ行って情報収集してくれ。後の事は追って連絡するから、お前たちは今日は帰れ」
「うん」
ジャネットとアレットはお互いに見合わせると、病室から出て行こうとした。
そんな二人の背中を見てフラヴィが言葉をかける。
「二人とも、今日はありがとう。お前たちと一緒に仕事ができて私は嬉しいよ」
「こっちこそ、ありがとう」
ジャネットが言葉を返し、二人は病室から出て行った。
珍しくフラヴィから感謝の言葉をかけられ、ジャネットは気恥ずかしさを感じた。
壊し屋ジャネット 暗闇幸(こう) @Mixer8132
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