夏と花火と初めてのキッス 9

「嫌だ。こんな人混みですることじゃない。それ以前に僕たちはまだ中学生だ。母さんもこないだ言ってただろ。そういうことはもっと大人になってからって」

「クコはまじめすぎるよ。伯母さんも固すぎ」彼女は僕の目を覗き込んで訴えた。「うちのお母さんなんてもっとおおらかだよ。お祭に浮かれて少しぐらいはめ・・を外してもいいけど、間違いは起こさないように、って言う程度で――」

「マ、マチガイ!?」彼女の言葉を遮って僕はすっとんきょうな声をあげた。


「その、コクーンの夢でも……できちゃうからって……」

「ままま待って待って待ってっ。き、きき君は、な、なにを言ってるんだっ」

 

 遠慮がちに話す彼女に僕は半ばパニックだった。

 

「話がいろいろと飛躍しすぎだっ。いやいやいや、ないからっ、ありえないからっ」

「そんな全力で否定しなくたっていいじゃない」

「するよっ、するに決まってるっ。僕的には手を握ってるだけでいっぱいいっぱいなんだっ。君がそんなふしだらなことを考えてるなんて思いもしなかった」

「私じゃないよ。お母さんの忠告だってば。そんなことしようだなんてさすがに言わないよ。……クコから迫られたら別だけど」

「言うわけないだろ! この僕が! てか、僕が言ったらするのか君はっ」

「うん……」


 ヒートアップする僕とは対照的に、彼女はだんだん小声になっていった。最後のほうは蚊の鳴くような声だった。

 だめだ、もう話が超展開すぎて頭がついてこない。

 するってなにをだ。僕が望んだらするって。僕は中学生で、彼女も同い年で、いとこ同士で、婚約していて、でも初めて手を握ったばかりで、その実、夢では彼女といかがわしい行為におよんでいて――


「ああもうっ、無理っ。キャパオーバーだっ」


 僕は頭をぶんぶん振った。目が漫画の登場人物のようにぐるぐる回り、脳は処理限界を超えて白煙を噴きそうだ。


「な、なんかごめんね。クコにする話じゃなかったね。お祭に高揚して気持ちが先走っちゃった。今の全部忘れて。ね?」


 彼女は半笑いで、反対側の手で僕の肩をなでつけた。僕の羞恥はとうてい収まらない。


「わ、笑われるかもしれないけれど、君にはもっと、その……貞淑、な女の子でいて……ほしい」

「笑ったりなんかしないよ」自然な笑顔で彼女は緩くかぶりを振る。「固い表現がクコらしいなあって思うだけ」


 そういうクコも好きだよ、と照れ笑いで言う。だから好きだとかは今はやめてくれよ。白煙だけでなく火も噴かせたいのか。


「うん、わかった。テイソウは結婚するまで守るよ。あとになってクコがエッ……その、したく・・・なっても拒否るからね」

「口が裂けてもそんなこと求めるもんか」

「はいはい、わかってるってば。その代わりというか、今日の妥協案があるんだけど」

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