青い巨塔に待つ者 4
はっと目をやると、ブラジャー姿となったプライの前でマリーがへたり込んでいた。マリーは「壁が」とつぶやいた。僕はなにが起きたか瞬時に察知した。
フリングスとちょうど逆だ。出さないのではなく入れない壁をプライは作れるんだ。
周囲の注目がマリーにしかいかず、服を脱いだプライに誰も騒がないのも合点がいく。壁の内がわは僕たちしか認識できないらしい。
なら無視して逃げれば。プライから目をそらす僕の考えを見越したかのように、彼女は言った。
「あたし、周りに見えるようにもできるんで。そしたら先輩たちに脱げと脅されたって言いますから。捕まってここ出禁になりますよ。あ、言っときますけどログアウトもさせませんので」
くっ、馬鹿げた行動だけど周到だ。プライの計算ずくなのか、エレベーターは上りも下りもすぐに来そうにない。
どんどん、となにかを打つ音がした。「入れなさいっ」とマリーが壁を叩いている。プライは、べー、と舌を出した。
入場客がマリーの行動に、あの子はなにをやってるんだ、とささやいている。まずいぞ。
ここはいったんプライに従って、すぐに指輪を回収しに地上階へ降りるか? いや、下で仲間が待機していると考えるのが妥当。持ち去られたらなにもかもおしまいだ。しかし、ここで彼女に騒がれるのも……。
指輪を外そうか迷って触っているとマリーがこちらへ走ってきた。
「貸してっ」と大声で僕の左手をつかむ。まさか。
「だめだ、マリー!」
止めるのも聞かず、彼女は僕の手に自身の指輪を重ね叫んだ。プライが恐怖の色を浮かべて目を見開く。
それは一瞬だった。
マリーを押しとどめる間もなく、プライの小柄な全身は、幻のようにすっと消え失せた。跡形もなく。
僕は呆然と彼女のいた場所を見た。
ガラスの壁の向こうには、ただ、真夏にしては寒々しく映る鉛色の空があるのみ。
マリーは「フリングスだってどこかで生きてるよ」と僕の手を離す。
彼女は、フリングスのときとは違って場所を――隣街にあるショッピングモールを指定してプライを飛ばした。
試着室内を指定したのは女同士の情けをかけたということか。
集まる周囲の視線を振り払うように「行こ」と彼女は歩きだした。
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